大阪樟蔭女子大学公式サイト 学長だより 北尾悟

女性が輝ける持続可能な未来をコミットメント

 先日、日本キャリアデザイン学会の研究大会・総会が開催され、その特別講演を本学客員教授の白井文先生がつとめられました。このことは、すでにニュースとして本学の受験生応援サイトに掲載しました。
 「Experience never gets old~人生100年時代の生き方を考える~」というテーマで、ご自身の経験をふまえて、人材育成とキャリア形成について今後どう取り組んでいけば良いのか示唆に富むお話をされました。その中で、今後、女性が活躍していく世の中になるためには、国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)の1つである「ジェンダー平等を実現しよう」が他のすべての目標にも関連しているので重要であり、SDGsの担い手として次世代の女性のエンパワーメントを高めていく必要があると強調されました。

 我が国は世界に類をみないペースで人口減少が進んでいます。2060年には約9,300万人と現在の4分の3程度に減少するというデータもあり、さらなる高齢化と生産労働人口の減少が予想されています。生産労働人口減少への対応としては、海外からの移民を受け入れることも必要ですが、女性の就業率のさらなる向上が望まれます。2017年のOECDの調査によれば、日本の女性就業率は73.9%で加盟41カ国中26位です。若干改善されたという報告もありますが、年代と就業率のグラフからM字カーブと称されるように、結婚や出産を機に仕事を辞める女性が多い現状があります。また世界経済フォーラム2017年版の「ジェンダーギャップ指数」のランキングは114位であります。特に、経済、教育、政治の分野において諸外国に大きく後れをとっており、管理的職業従事者における女性の割合も13.2%と、アジアや欧米諸国に比べて低い現状があります。
 日本ではいまだに根強く男社会が残っており、女性が抱える困難を解決しなければならない課題としての認識度が低いなど、社会全体に大きく横たわる根本的な問題が山積しています。しかし、生産労働人口減少への取組みとして、女性の就業率を高めねばなりません。2017年時点で262万人存在する女性の就業希望者は、我が国最大の潜在的労働力です。女性の活躍が進めば、優秀な人材の確保や新たな財・サービスの創出が期待でき、経済成長にもつながります。2015年のOECDの試算によれば、女性の労働参加率が2030年までに男性と同レベルになれば、労働参加率に変化がなかった場合と比較してGDPが約20%上昇するという試算もあるようです。

 女性の活躍を推進していくには、当然のこととして男性も責任をもって関わる、つまりコミットメントが不可欠です。男女共同で働き方や教育の在り方も含めた考え方を変えていき、社会全体でワークライフバランスを重視した人生設計に基づいた女性の就業率の向上を図らねばならないと思います。生涯にわたる女性の働き方を変えるには、女性自らの生涯にわたる学び、学び直しの重要性が増してくるでしょう。これまでの教育体系とは視点や発想を転換した女性教育も必要になるでしょう。出産、育児を含めた学びやキャリアパスに関する学びをはじめとするこれまでに蓄積された教育研究資源を、さらに深みを増して教育展開していくことを、本学をはじめとする女子大学は求められていると思います。

 文部科学省の受託事業「男女共同参画のための学び・キャリア形成支援事業」がスタートし、その研究協議会の企画委員に白井先生が就任されます。今後、白井先生と情報交換させていただき、女性が輝ける持続可能な未来を創出できるよう、歩んでいきたいと思います。
 大学が社会に果たすべき役割は、「人材育成」と「知的創造活動」です。今後、大阪樟蔭女子大学は、社会に対する存在意義(ミッション・ポリシー)を提示し、その情報を地域住民をはじめとする国民に分かりやすく発信し、本学の社会で担うべき役割をコミットメントしていく必要があります。女性が輝ける持続可能な未来をつくりあげていくことが本学の使命であると考え、関西SDGsプラットフォームに参画し、2030年の目標に向かい持続可能な開発目標を支援し、その実現に向けて歩み続けます。

 ところで、コミットメントの言葉と意味が似た英単語にエンゲージメントがあります。婚約指輪のエンゲージリングの正式名称はエンゲージメントリングです。本来は婚約相手にではなく、業務上の約束を履行するためにリングを渡すことから始まったそうです。何か事を行なうための約束をする証だそうです。お互いを信頼し約束をするということです。このエンゲージメントに「責任をもつ」という意味合いを強くした言葉がコミットメントだそうです。
 決して、婚約指輪を渡すことに責任がないと言っているのではありません。誤解なきように。エンゲージメントも「深い理解と目的をもった建設的な対話」という意味が含まれています。

北尾 悟

人の役割が変わる?

 先月の地震、そして今月の集中豪雨、自然に畏怖を感じる今日この頃です。災害の影響は人の想像以上に続いており、お亡くなりになられた方とご家族にお悔みを申し上げますとともに、被災され大変困難な状況におられる皆様には、心からのお見舞いを申し上げます。
 学生の皆さんも休講の都合による補講の設定、ならびに試験日が変更となり、落ち着かないと思います。また猛暑、いや酷暑と言ってもよいくらい厳しい気候状況で体調管理も大変でしょうが、しっかりと対応してくれることを願っています。

 一般社団法人全国高等学校PTA連合会と株式会社リクルートマーケティングパートナーズが共同で「高校生と保護者の進路に関する意識調査」を行い(リクルート カレッジマネジメント210/May-June. 2018)、その設問の一つに「人工知能(AI)などの技術革新・発達は将来に影響あると思うか?」がありました。これに対して高校生の52.0%が「影響がある」と答えています。「生活が便利になる」「人手不足を解消する」「新しい仕事が生まれる」等メリットを感じている反面、近い将来、「人間の仕事が奪われる」という職業選択・雇用への影響を懸念する自由回答がありました。

 「AI(ロボット)が人間の仕事を奪う」。果たしてそうなるのでしょうか?AIに限らず技術の進展によりこれまでも人間が携わる仕事は確かに変化してきました。例えば、農機具の導入により農家の方々の作業が変わったり、自動改札機の普及によって切符切りという駅員さんの仕事がなくなり別の業務へシフトしました。昨今のロボットやコンピューターが仕事を奪うという脅威論は、これまでの技術革新・進歩とは違い、すべての仕事がなくなると捉えている人もいるようです。

 AIは、探索と推論を得意としています。「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを牽引してきた国立情報学研究所の新井紀子教授は、AIは「検索と最適化のスキルを持っていて、日々新しい情報が得られるとどんどん蓄積していく能力を有している」と、講演で話されています。私も先日、新井先生の講演を聴講したのですが、「新しい情報を蓄積する能力」がこれまでの技術の進展と大きく違うところだと感じました。一例を示しますと、田植え機が開発されたときは、ここまでは機械が行い、この部分はまだ人間がしなければならない、ということがはっきりしていました。新しい技術ができる部分とできない部分が明確に分かれていて、そのイメージは皆共通に認識していました。それに対し、AIは「新しい情報を蓄積する能力」を有することから、日々AI自身の能力が変化します。AIの情報量は新しい体験をするたびに増えていき、人間のそれをはるかに超えていき、その差は開くばかりです。このようなことから、AIができることできないことの境界がはっきりしないことが予想されます。また皆の共通認識を構築することも難しいでしょう。ですから、「人間の仕事が奪われる」というAI脅威論が高まっているのだと思います。

 ところで、AIロボット君は東大の合格圏内に達したのでしょうか?新井先生のプロジェクトでは結局、東大にAIロボット君は合格できないと結論づけました。「検索と最適化」のスキルは優れているけれど文章読解力レベルが向上しなかったとされています。膨大な情報量から複数のキーワードを検索し、それらを統合して最適と思われる解を導くことは得意ですが、問題文の内容を「理解」することは不可能だとのことです。言ってみれば、確率の高い当てずっぽう能力を備えたロボットだということです。もちろん、その確率は知識量の増加や検索し抽出した複数の事例のネットワークによる最適化作業により高まっていきますが、根本的に問われていることに対して直接的に理解し答えようとはできないということです。

 ここにAIの限界がある、裏返せば人間が人間であること、そして本当の意味での人間の仕事は何かのヒントが隠されていると思います。2045年にいわゆるAIが人間の知性を超すタイミングとして「シンギュラリティー(技術的特異点)」という言葉をアメリカのレイ・カーツワイル博士が唱えていますが、AIが指数関数的に大きく進化し、私たちの生活がどう変化するのか、予想がつかない状況になるのかもしれません。しかし、いくらAIが進化しても人間にはなれないし、人間でしかできない部分は絶対残ると私は信じています。
 今後、記憶や検索、そしてグループ化や最適化に関してはAIに任せ、そうでない分野を人間が担うようになるでしょう。よくよく考えてみると、AIが得意な分野は人間には不得意な分野であり、この分野を人間が担おうとすると結果的には、これまでの単純作業や決まり切ったルーチンワークの域でしかなかったと思います。また、ほんとうに単純な作業やルーチンワークは今後の人手不足と相まって、どんどんAIロボットに置き換わるでしょう。もっともAIを使わなくても済むことかもしれませんが。そう考えると、人間は単純労働から解放され、付加価値の高い創造的な活動に時間を費やすことが可能だということを示しています。ただし、これまでは決まった作業をしていれば労働の対価(お金)がもらえた時代から、自ら能動的に付加価値を創造できる活動をしないとお金がもらえない、生活できない時代へと変化していくことを意味しているのかもしれません。前向きに考えて、AIの進歩により新たな仕事が生み出される可能性もあります。人間が行う仕事のキーワードは「コミュニケーション能力」ではないかと思います(これまでの「学長だより」を読んでいただければと思います)。この能力はAIでは修得できないからです。

 繰り返しになりますが、将来、人間の仕事のある部分はなくなる、つまり、AIロボットが得意とする分野に関する仕事がなくなるでしょう。ただAIではできない部分、それはなくならない、いやこれからの世の中、新しい仕事が生まれてくるでしょうし、求められる仕事の質が変わるでしょう。人の役割が変わります。これから生きていくためにはどうすれば良いか?学生の皆さんには学生時代にこのことを真剣に考えてもらいたいですし、大学もサポートできる環境を備えていかねばならないと思います。人生100年時代、生き抜く考え方を大学で身につけてもらいたい、いや学生時代に身につけられなくても、そのヒント、きっかけを掴んでほしいと思います。

北尾 悟

常日頃の意識が大事

20180511.jpg 今年は季節の移り変わりが早い気がします。3月末には桜の花が散り始め、4月の半ばに街路を彩ったハナミズキもすっかりと新葉を身につけた姿と変わり、皐月5月に入る前には、山に目をやると藤の花が紫のペイントをところどころにすでに施している状況。

 この春新たにキャンパスに足を踏み入れた新入生も学生生活を順調に滑り出していることと思います。また在校生も学年が一つ上がり、勉学の内容も深みが増し、卒業年次生は卒業研究と就職活動に費やす時間が多くなってきたことでしょう。一人ひとりの学生が充実した日々を送ることを願ってやみません。

 ところで学生はキャンパスという囲いの中で守られている部分がありますが、社会の一員です。社会の一員ですので他者と関わりが生じる社会生活を営まねばなりません。当然、いろいろな人とお付き合いをしなければなりません。どうしても合わない人、苦手な人と一緒に共同作業をせざるを得ない場合もあるでしょう。共同作業でなくても、付き合いづらい人とのやり取りも必要なこともあるでしょう。以前、この学長だよりにも記しましたが、そういう場合に、できたらその人の良い面、自分よりも優れている面を探し認めるように努めていくことを提案しました。「どこかにこの人の良い面がある、良い面が必ずある」と念仏のように心の中で呟いてください、と。

 ただ正直に告白しますが、私自身、苦手な人がいますし、うまくコミュニケーションが取れずに悩むことも多々あります。この学長だよりでは、こうすれば良いですよと言っておきながら、実は悩んでいます。何とか表面上は平静を装っていますが、社会生活を気持ちよく送っているわけではありません。少しでも良くしようと心がけ、心の中で「どこかにこの人の良い面がある」と念仏を唱えているという状況です。

 最近、思っていることがあります。コミュニケーション能力を高めるには他者との会話などを円滑に進めていかねばなりませんが、この他者は当たり前のことですが、活字の通り、「他の者(人)」です。自分ではありません。忘れがちではありますが、会話などをしている他者、相手は、自分とはあらゆる点で違っているということです。これまでの人生における経験、考え方、価値観、知識の内容や量など、一つとして同じものはないのです。ですから、会話をして自分の意見や考えを相手に理解してもらうことは簡単なことではありません。想像以上に相当なエネルギーを費やさねば、自分自身が描いているように相手は話に乗ってくれないし、理解もしてくれないと思います。

 では、どのようにして想像以上に相当なエネルギーを費やして、うまく相手とコミュニケーションを取ることができるのでしょうか?「想像以上に相当なエネルギー」とちょっと大げさな表現をしましたが、常に意識、心がけをしないと忘れてしまいがちになるので、こう記しました。難しく考えずに、常に意識をしておくことがまず大事で、各々のできるところから実践すればよいかと思っています。

 考え方の一例として、これまでに示してきた「どこかにこの人の良い面がある」と念仏のように唱えることもあるかなと思います。心の中で唱えることにより相手を尊重することになるので、自分本位の考えを転回し相手の立場を認識することにつながるでしょう。そして会話の際に聞き手である相手の立場から自分がどう見えるのか、相手から自分はどう思われているのだろうか、こういう言い方を相手はどう捉えるだろうか?など思いめぐらすことにより、相手と気持ちよく会話が弾み、良好な間柄が築けるのではと思います。

 また相手に自分の考えを聞いてもらい何らかのフィードバックをもらおうと思ったら、やはり会話術を磨かねばならないでしょう。私自身、会話術を身につけていませんし不得手なことではあるのですが、最近、ちょっとだけ心がけていることが一つあります。それは、本題、ポイントを外さない、ずれないで話を進めるということです。得てして人は無意識のうちに(深層には意識しているかもしれないが)本題とは関係ないことを会話の途中で持ち出してしまいます。私もよくあります。相手によく思われたい、共感してもらいたいという願望があり、会話が本題からずれていき、結果として聞き手の注意力が散漫になり、こちらの思いが遂げられないことがしばしばあります。本題を理解してもらうのに役立つ情報であれば良いのですが、実はそういうケースはほとんどないという心理学者の研究結果もあるようです。会話の目的は、相手に自分の趣旨を理解してもらい、一緒に考えてもらいたいことですから、この目的達成に対して阻害することはできるだけ排除するよう心掛けたいものです。聞き手がこちらの話題に関心を持ってもらい、一緒に考えてくれるように努めるには、無関係な情報は取り除き、ポイントをずれずに示すことが大事だと思って、少しずつ実践しているところです。

 自分自身も大事ですが、相手のことも考えてみる。常日頃の意識が大事だと思います。いろいろな多様性を持つ相手を尊重する。お互いが認め合う「美学」を持ちあわせて初めて、ダイバーシティーの世の中が現実のものになるのではないでしょうか?

北尾 悟

平成30(2018)年度 入学式式辞

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 本日晴れて大阪樟蔭女子大学大学院ならびに大阪樟蔭女子大学に入学された新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。すべての教職員とともに、みなさんの入学を心から歓迎いたします。
 そして、みなさんを今日まで育て、支えてこられたご家族をはじめ関係のみなさまにも、心よりお慶びを申し上げます。
 また、後援会、同窓会をはじめご来賓のみなさまにはご多用のところをご臨席賜りまして、厚く御礼を申し上げます。

 新入生のみなさんが入学された大阪樟蔭女子大学大学院ならびに大阪樟蔭女子大学の運営母体である学校法人樟蔭学園は、1917年、大正6年に設立された樟蔭高等女学校がその歴史の始まりです。昨年、創立100周年となり、本年から次の100年に向けた歩みがスタートします。これから、みなさんと共に、新しいページを作っていきたいと思います。

 さて、昨年来、日本人の読書量が低下しているというニュースが頻繁に報道されるようになりました。約半数の日本人が1ヶ月に1冊の本も読まないと言われています。その背景として、スマートフォン(スマホ)の普及が挙げられます。スマホの利用時間が増える一方、読書量は減少しているというデータがあります。そして若い世代の人たちを中心にスマホの普及に伴い、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が急速に広まっています。このSNSは、瞬時に短いメッセージを発信する必要があるため、短文化や省略化の文章表現が求められ、「読書量の減少」とともに「長文表現力の低下」も懸念されています。
 脳科学者である東北大学・川島隆太教授によれば、スマホの操作中では論理的な思考を司る大脳の前頭前野が眠っている状態になっている、とのことです。

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 このような話を聞くと、「スマホを操作する時間を短くして読書をしなさい」ということ言いたいのですね、と思われるでしょう。結論としては、そういうことなのですが、では、論理的な思考をするのに、なぜ読書を勧めるのか。逆に言えば、読書をするとなぜ論理的な思考力が養われるのか、について考えてみたいと思います。

 SNSによる人とのつながりは、「今、ここ、この瞬間」が大事であり、そのときの話題で盛り上がっています。もちろん、「今を大切にする」ということを否定はしません。けれども、そこでは、過去・現在・未来といった長期的な時間軸や視点での考えは、ほとんどありません。
 論理的に物事を考える、ひいては発想力を豊かにするには、過去、つまり歴史を知ることが重要になってきます。なぜなら、人類の経験してきた多くの歴史に関する知識を得ることで、現在に対する認識が高まります。そして、その認識を通して未来への展望を開くことができます。
 過去を振り返り思い出すことで、自らの連続性を確かめ、これから生きていく活力を高める回想法という中高年世代を中心とした心理療法があります。若い世代の人たちにとっても同じことが言えると思います。過去、つまり歴史を振り返り、現在の立ち位置を確認することによって、将来の方向性が見えてくることになるのです。「今、ここ、この瞬間」に没頭していると、この瞬間の延長でしか未来を捉えることができません。過去、歴史を振り返ってみることで、紆余曲折を経て現在の自分の姿や社会の形があることを知ることができます。そうした歴史感覚があってこそ、未来への想像力は鍛えられると私は思います。

 では、過去、歴史を振り返り、知識を蓄えるにはどうすれば良いのでしょうか?もちろん、自分自身のこれまでの人生の振り返りは行って欲しいですが、付け加えて、もっと広い視野で、また色々なアプローチから過去、歴史を振り返り、論理的思考や発想力を高めていく必要があります。
 どうすれば良いのでしょうか?
 それは、「読書」です。

 文字や活字になっている書物は、当然のことながら過去のことが書かれています。文字や活字を目で追い、時には物思いにふけっても良いでしょう。いろいろと考えてみるという習慣を通して、論理的思考能力とともに、表現力も高まり、結果として、人とのコミュニケーション能力も自然と兼ね備えることができると思います。

 実は今日、みなさんに一番伝えたかったことは、「歴史を知る」ということなのです。歴史を知る手段として、一番簡単な方法が「読書」なのです。読書を通して先人たちの思い、考えを知ることで、今の自分の生き方を考える、そして将来、未来のことに思いをめぐらす。そんな時間を、ここ樟蔭の学生時代に味わってもらいたいと思います。

 アイフォーン(iPhone)で知られるアップル社を設立したスティーブ・ジョブズ氏も、こういう言葉を残しています。
「先人達が残してくれたあらゆるものに感謝しようとしてきた。そしてその流れに何かを追加しようとしてきた。そう思って私は歩いてきた。」

 「スマホの時間を短くして読書をしましょう」という話に、スマホを世の中に送り出したジョブズ氏の言葉を引用することに少し違和感を覚える人もいるかもしれません。しかしながら、彼の読書量は半端なものではなかったそうです。豊富な読書を通して、先人達が残してきた歴史を知り、世の中の価値を変えていくインパクトのあることを追い求めてきた結果として、スマホが生まれたのです。ジョブズ氏も現在までの過去のこと、つまり歴史を知る上で、読書が大事ということを否定しないでしょう。

 大阪樟蔭女子大学では昨年、建学の精神を踏まえ、グランドデザインを提示しました。「美(知性・情操・品性)を通して社会に貢献する~美 Beautiful 2030~」です。ここでいう「美」とは、単に外見上のものではなく、むしろ内面から醸し出される美しさであり、教養があり立ち居振る舞いに品がある洗練された「美」を示しています。
 歴史を知るために多くの書物に触れることで、内面の美を磨いてほしいと思います。読書を通して、自分自身の美しい種を見つけ、それを育て、花を咲かせてください。花を咲かせる時期は卒業後でも構いません。少なくとも樟蔭で過ごすこのときに、美しい種が発見できるよう、われわれ教職員もできる限りのサポートをします。

 結びに、新入生の皆さんが、読書から歴史に関する知識を蓄え、多くの友人を創り、健康で充実した学生生活を送ってくださることを願って、私の式辞といたします。
 みなさん、ご入学、まことにおめでとうございます。

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平成30年4月1日
大阪樟蔭女子大学 学長
北尾 悟

平成29(2017)年度 学位授与式 式辞

 平成29年度の学位授与式を挙行するにあたり、大阪樟蔭女子大学の教職員を代表して学部卒業生ならびに大学院修了生のみなさんにお祝いの言葉を述べさせていただきます。学位授与、そして、卒業おめでとうございます。
 併せて、みなさんの学生生活を支えてこられたご家族をはじめ関係のみなさまには、こころよりお慶びを申し上げます。
 また、後援会、同窓会をはじめご来賓のみなさまにはご多用のところをご臨席賜りまして、厚く御礼を申し上げます。

 卒業生ならびに修了生のみなさんには、樟蔭で学んだことをベースにして、これから新たな場所で挑戦、活躍されることを願っています。ただ、今後、世の中は日本のみならず世界規模でその変化、動きがどんどん加速化されていきます。当然、みなさんの生活にも影響を与えることになるでしょう。様々な技術革新の進展が生活の様相を変える可能性があります。その一つとして、人工知能、AIが挙げられます

 ペッパー君などAIを搭載したロボットが生活の様々な分野に進出しています。家庭内においては、会話型のAIスピーカーが脚光を浴びています。また、就職の採用面接でもAI搭載のロボットが面接官を行う企業も出てきています。みなさんの中でもロボット相手に面接を受けた人がいるかもしれません。
  そして、AIロボットによって将来なくなる職業リストも発表されています。マニュアルに基づいた機械的なやりとりで事足りる単純作業は、今後、確実にロボットに置き換えられるでしょう。ファーストフードのカウンター業務などは、人ではなくロボットが担う可能性が十分考えられます。自動運転の車が開発されていることを考えると、タクシーやトラックドライバーという職業領域にAIロボットが進出してくる日が近いのかもしれません。このような話を聞くと、「AIが人の仕事を奪うのでは?」というネガティブな未来を想像してしまいます。果たしてそのような世の中となるのでしょうか?
 先ほどのファーストフードのカウンター業務を例にとって考えてみましょう。来店したお客さんのオーダーを受け取り、食べ物を提供する、そして料金を受け取るなどのことはAIロボットで対応可能です。しかし例えば、お客さんが急にオーダーの変更をしたり、急いでいるから早くしてなどの要求を出してきたり、あるいは店が混んできて多くのお客さんから同時に苦情を言われたりした場合、ロボットで対応できるのでしょうか?またあってはならないことですが、店舗が火事となった場合の誘導などをロボットに任せっきりにできるでしょうか?

 つまり、瞬時の判断や状況に応じた対応などにロボットはまだまだ柔軟に適応できないのです。もちろんこういう場面、場面の機会学習、最近ではディープラーニング、深層学習という言葉もありますが、多くの経験を積み重ねることでロボットの対応能力は向上するでしょう。しかし、人間社会においては無限ともいえる場面、場面があります。時代背景やトレンド、そして人々の考え方など心理特性は常に一定ではありません。状況が刻一刻と変わることを念頭に置いていなければ対応できません。ですから完全にAIロボットに置き換わることはありません。AIはあくまでもツールです。このツールを使う主体は人間です。

 このような世の中の動向から、これからどう考え行動していくか、各々の生き方が問われています。AIロボットに任せていくことと人間がやるべきことを明確に認識していくことが必要です。ファーストフードのカウンター業務でも分かるように、人間として、人とのコミュニケーション能力の向上が求められます。事務的な単純作業はロボットに任せて、人間として、本来その仕事でなすべきことをしっかりと考え行動することがますます重要となってくるでしょう。

 では、人とのコミュニケーション能力を高めていくにはどうしたら良いでしょうか?この能力は一朝一夕に向上するものではありません。いろいろな経験が必要です。その経験を通した能力アップのポイントは、「相手の良い面を認める」ことだと私は思います。たとえどんなにコミュニケーションが取りづらい人でも、どこかに良い面が必ずあります。100%全てを良く見ようとしなくても構いません。しかし、自分より必ず良い面、優れている面が、何かしらどんな人でもあるはずです。それを見つけて理解して、付き合っていくうちにコミュニケーションが徐々に取れてくるのです。お互い認め合い、リスペクトすることがコミュニケーション能力向上の秘訣だと思います。

 平昌オリンピックでは日本選手の活躍に日本中が湧きましたね。現在もパラリンピックで健闘をしています。多くのメダリストが誕生しましたが、特にチーム種目であるスピードスケート女子のチームパシュートやカーリング女子の頑張りには目を見張るものがありました。チームワークが求められるこれらの競技では、チーム内の信頼関係がなければなりません。お互い、できること、やるべきことを確認し、練習を重ねていく。そこにはお互いリスペクトしあいながらコミュニケーションを高めていったのでしょう。このことはチーム種目のみならず個人種目においても同じです。選手以外に、競技面またはメンタル面でのコーチ、トレーナー、あるいは食事栄養面をサポートする管理栄養士など多くの人たちから成るチームとしてのコミュニケーションを高めていき、オリンピックという晴れの舞台に立つことができたのです。
 オリンピックを例にとりましたが、相手を認めリスペクトし、コミュニケーション能力を高めることは、ある目標、目的に向かって社会生活を送る上で重要であることを示していると思います。それは、どんな目標、目的、どんな場面でも同じです。

 今年度、樟蔭学園は創立100周年を迎えました。大学では、2030年に向けてグランドデザインを提示し、「美(知性・情操・品性)を通して社会に貢献する~美 Beautiful 2030~」をスローガンに掲げました。ここで言う「美」「美しい」とは外見のみならず、むしろ内面の美しさを意図しています。その内面の美しさをもって社会で活躍する人を育てることを通して、大阪樟蔭女子大学は世の中に貢献しようとしています。コミュニケーション能力は真の内面の美しさがなければ培うことができません。今後、世の中はAIロボットをはじめ、情報分野を中心に技術がどんどん進歩していきます。あらゆるものがインターネットにつながる時代、モノを購入、所有するのではなく、コト(利用体験)に重きを置く価値観が広がりつつあります。今後、ますますコミュニケーション能力が問われ、個人同士が信頼しあう必要性が増してきます。

 このような未来社会の予測を考慮に入れ、本学は伝統のなかに社会に認められる大学となるよう、グランドデザインを提示しました。知性美・情操美・品性美を兼ね備えた卒業生が様々な場面で光輝き、自分の希望の花を咲かせてくれるよう、教職員一丸となって学生や院生を教育指導していきます。今後、卒業生のみなさんが「学んでいい大学だった」と振り返ってもらえるよう、新たな礎を築いていきます。みなさんには温かく、そして時には厳しく大阪樟蔭女子大学のサポーターになり続けてください。

 結びに、「相手の良い面を認め、コミュニケーション能力を高める意識を持ち続ける」、このことをみなさんへの「はなむけ」の言葉とし、「美 Beautiful」な人生を歩まれることを心より祈念し、私の式辞といたします。
 みなさん、改めて学位授与、そして卒業、おめでとうございます。

平成29(2017)年度 学位授与式

平成30年3月14日
大阪樟蔭女子大学 学長
北尾 悟

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