大阪樟蔭女子大学公式サイト 学長だより 北尾悟

謙虚な気持ちが多様性の寛容につながる

 平成から令和の時代となり早3ヶ月以上過ぎました。新しい時代の息吹を感じ、皆さんが生き生きと前向きに行動できる世の中にしたいものです。

 昨年、訪日外国人数は3,000万人を超えました。特に、関西の伸びが顕著です。6月には大阪でG20が開催され、2025年の万博に向けて国際都市の印象が深まったと思われます。また外国人に限らず、異なる考え方、価値観や感性をもつ人たちが増えてきています。これまでの画一的な見方、捉え方と違う面を大事にする社会となってきました。 Sexual Orientation Gender Identity (SOGI)もその一例です。これからの社会、将来において、多様性がキーワードになると多くの人が言っています。そのような社会に対応するには、自分自身が持っているものとは違う異質を受け入れる「受容力」が重要になってくるのではないでしょうか?

 今後、自分とは違う考え方をする人々と仕事をしていくことが増えてくるでしょう。異質な人々が同じ職場にいる状況で生産的な仕事をしていくには、まず相手のことを知る努力が必要です。それまで個人々々が生きてきた背景が違うので、考え方が違うのは当たり前だと思うことが自然だと思います。そういう気持ちがなければ相手に対して配慮が足りなくなります。自分本位になり他人のことは文字通り他人事になるでしょう。場合によっては喧嘩にまで発展してしまう恐れもあります。

 喧嘩にまでとはちょっと飛躍しすぎかもしれませんが、このような状況にならないためには、異質を感じ取る「感受力」が求められます。自分と違う立場の人と真摯に向き合い、相手を「感じ取ろう」とする態度やそれを引き出す会話が必要です。これが多様性に満ちた世の中を生き抜くポイントだと思いますし、結果として人間関係を良くしていくことに繋がります。真摯に向き合うには、まず自分と相手は違うということを改めて認識し、相手をリスペクトすることが必要だと思います。これまで学長室だよりで記しましたが、どんな人でも必ず自分より優れていることがあるので、それを見つけリスペクトして対話することが望まれると思います。

 ただ自分が相手を知ろうと向き合っても、相手が自分のことを理解してもらえないこともあるでしょう。このような場合、相手の能力の問題、つまり相手が悪いのではなく、自分自身の態度や説明が不十分なのでは、という謙虚な姿勢が大事になるではないでしょうか。新渡戸稲造の言葉に「人を愛して愛の反響なきは己の愛の足らぬを証拠と知るべし」があります。他人のせいにするのではなく、まずは自分自身に問題がないのか、自分自身に問うことが求められるということです。

 先日、東京のある学園の理事長、学長を兼ねてらっしゃる方と懇親の場で話す機会がありました。その中で組織のリーダー、フォロワーを問わず一緒に仕事をしたい人とはどういう人かという話になりました。その理事長曰く「自分と異なる意見を持つ人を受け入れる人」「学び続ける人」「周囲の人を大切にする人」の3つを挙げられました。今まで以上に多様性に対応せねばならない世の中になります。その中で仕事を含めて生活していくには、このような心持ちを持っていくことが大切だと感じた次第です。

20190819aiken.jpg 謙虚な気持ちで自問自答しながら周囲の人々と生活をしていく。そう、うちの愛犬は散歩に行きたくてはやる気持ちを抑え、身体が硬い主人がストレッチを終えるまで玄関でじっと待っています。相手を受け入れ、ちゃんと学び、そして周囲の人を大切にしています。

 うーん、それに比べて私は・・・・

北尾 悟

田辺聖子さんを偲ぶ

 6月6日(木)に田辺聖子さんが亡くなられたというニュースが、10日(月)の昼過ぎに飛び込んできました。本学の前身である樟蔭女子専門学校の国文科の卒業生であり、皆さんご存知のように、芥川賞作家であり数々の作品を世に送り出した偉大な方です。男女の機微を独特の感性で表した恋愛小説やユーモアにあふれるエッセーで人気を集めました。芥川賞以外にも多くの文学賞を受賞され、2008年には文化勲章を受章されました。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 田辺聖子さんにはこれまで大阪樟蔭女子大学に多大なるご理解とご協力をいただいています。中でも、樟蔭学園の創立90周年を記念して大学図書館内に「田辺聖子文学館」を2007年に開設した際には、400冊以上の著書やコレクションを送られ、書斎の再現コーナーも設けることにも積極的に関わっていただきました。現在、7月8日までの期間、「ミニ企画展『田辺聖子の樟蔭時代』」を開催しています。多くの方に足を運んでいただければと思います。
 2008年には青少年の読書・文化活動の発展・向上に寄与することを目的に「田辺聖子文学館ジュニア文学賞」が始まり、中学生・高校生の応募総数も延べ18万を超える文学賞へと発展しています。今年度も第12回目の文学賞への応募が始まっています。数多くの若くてみずみずしい感性豊かな作品が集まることを期待しています。

 実は、9日(日)に私は駅前の書店で田辺聖子さんの「私の大阪八景」(2018年度大阪ほんま本大賞特別賞受賞作)を買って読んでいました。この作品は、昭和初期から戦時中を経て戦後の頃までの大阪市内北部を舞台に、たくましく育っていく少女の物語です。フィクションの形をしていますが、田辺聖子さんの自伝といっていいでしょう。その中で「その三 神々のしっぽ〈馬場町・教育塔〉」には、友人と(樟蔭女子)専門学校に願書をもっていった、という記載があります。また「その四 われら御楯〈鶴橋の闇市〉」では、戦時中の樟蔭での学生生活(ほとんど軍需工場で働くことを余儀なくされた)や大阪大空襲の際には樟蔭から歩いて福島の実家である写真館までたどりついた様子や実家が跡形もなく戦火に消えたことも記されています。
 あの戦中戦後の時代を少女の目線で市中の人々の営みも交えて表されており、田辺聖子さんの他の作品とは一風違った感じがします。昭和49年に初版が発行され昨年改版再版されていることも併せて、興味深い作品だと思います。

 この本の解説は、交流が深かった小松左京氏(先に鬼籍に入られましたが)が書かれています。その中で田辺聖子さんの作品に引き付けられた理由として「文章の何とも言えない明るさと、ヒロインのかわいらしさ」と記しています。月並みだけど「文は人なり」とも。書く人の人柄や姿勢というものが文章に遺憾なくあらわされているとのこと。
 改めて、田辺聖子さんのご冥福をお祈りいたします。天国で「かもかのおっちゃん」達と賑やかにお酒とお喋りを楽しんでください。

北尾 悟

想像・発想する意識を持とう!

 いつの間にか葉桜の時期となり、ハナミズキの花が咲き誇るようになってきました。4月に入学された新入生もキャンパスライフに慣れてきたところでしょうか?来週から大学の暦では8連休となりますが、気持ちをリフレッシュして5月以降、自分の希望の花を咲かせることができるよう、自分自身を少しでも高める生活を送ってもらいたいものです。

 今年2月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「はやぶさ2」が、地球から約3億キロメートル離れた小惑星「りゅうぐう」の半径わずか3メートルの場所に見事着陸に成功しました。また、地表に弾丸を打ち込んだ信号も確認したというニュースも飛び込んできました。弾丸を打ち込んだ目的は、衝撃により生命の元となる有機物や水分を含む岩石を採取し解析することにより、地球の成り立ち、そして、地球の生命はどこからきたのか、という人類の根源的な問いに答えを見つけようとするものです。

 高度な技術を駆使して繊細な作業を行うことに対して、当初、JAXAでは自動制御システムを通して、探査機自身が自律的に判断し態勢を整えていくことを考えていました。3億キロメートル離れたところから半径3メートルの着陸しやすい平地を探し、弾丸を打ち込み発生した衝撃散乱物を回収するミッションを達成するには、当然のことながら、AIならびにロボット技術を用いシステム自らを制御することを前提とした自動作業を行う計画だったそうです。
 ところが、途中から「人」が探査機の姿勢までこと細かく定める方法に変えたそうです。舞台裏の詳細は分かりませんが、やはり「人」の能力の方を選択したということになります。細かい角度や距離感、そして何より想定外の事象に出くわした際の対処方法など、いくらAI技術やロボット工学が進展しても、現時点では「人」の方が優れているとJAXAの「人」たちは判断しました。
 このことは、今後、AIロボットをはじめ自動化システムを導入の際には、人の「想像力」ならびに「発想力」が試されることを意味していると思います。想定外の事象、例えば危ない動作を始めたら、その動作を安全に止める工夫が必要です。こうした工夫や想像に思いを巡らすことが大事です。現時点ではAIロボットより「人」の方が優れているということです。いや、現時点ではなくこれからも「人」が優位ではならないことを示唆していると思います。人にはより論理的な思考が求められ、深く考えることの大切さを示していると感じます。あくまで、「人」が『主』で、「機械」が『従』であることを維持していくためには、人自身もさらに想像力を鍛え、新たな発想力も高めていかねばならないということです。

 では、「想像力」「発想力」をどう身に付けていけば良いのか?1つ例示してみたいと思います。それは、ブレーンストーミングの考案者であるアレックス・F・オズボーン氏が作成したチェックリスト型発想法です。

1.転用(put to other uses):何かに置き換えてみたら?他の方法はないか?

2.応用(adapt):別の仕組みを応用/適用してみたら?他からのアイデアは?

3.変更(modify):変形/修正してみたら?

4.拡大(magnify):足し算や拡げてみたら?

5.縮小(minify):引き算や排除してみたら?

6.代用(substitute):ほかのものを代用してみたら?

7.置換(rearrange):再調整してみたら?入れ替えてみたら?

8.逆転(reverse):反対からみたら?逆にしてみたら?

9.結合(combine):組み合わせてみたら?

 こういう質問を自身に投げかけることで想像力、発想力を高め、新しいアイデアが生まれるよう意識づけていくのはいかがでしょうか?もちろん、行動を伴うことが求められますが、まずは意識をすることから始めてみませんか?

20190425hanamizuki.jpg ハナミズキの花言葉の1つに「逆境にも耐える愛」があるそうです。遠い宇宙空間で様々な困難に懸命に立ち向かう「はやぶさ2」にJAXAをはじめ多くの人たちが愛情を持って見守っています。ミッションを遂行し、2020年末に無事地球に戻ってくることを願って、夜空を眺めてみたいと思います。一青窈さんの「ハナミズキ」を口ずさみながら。。。『君と好きな人が百年続きますように』 ~「永続性」もハナミズキの花言葉です~

北尾 悟

平成31(2019)年度 入学式式辞

20190401kitao_gakucho.jpg 本日晴れて大阪樟蔭女子大学大学院ならびに大学に入学された新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。桜の花が満開に向かうこの時期に、すべての教職員とともに、みなさんの入学を心から歓迎いたします。
 そして、新入生のみなさんを今日まで育て、その勉学を支えてこられたご家族をはじめ関係のみなさまには、こころよりお慶びを申し上げます。
 また、後援会、評議員の先生方をはじめご来賓のみなさまにはご多用のところをご臨席賜りまして、厚く御礼を申し上げます。

 新入生のみなさんが入学された大学院ならびに大学の運営母体である学校法人樟蔭学園は、1917年、大正6年に設立された樟蔭高等女学校がその歴史の始まりです。大正・昭和・平成の3つの時代、100年を超えて女子教育に携わり、これまでに約10万人の卒業生を社会に送り出しています。歴史と伝統の良さを守りつつ、次の元号の時代にもその時代に即した女子教育の新しいページを作っていきたいと考えています。

 ところで2025年、みなさんは、どういう生活をしているのでしょうか?どんな仕事をしているのでしょうか?2025年は、大阪・関西万博が開催される年です。
 ここ大阪・関西では、今年2019年はG20サミット首脳会議、並びにこの東大阪市の花園ラグビー場も試合会場の1つであるラグビーワールドカップが開催されます。また2021年には、生涯スポーツの世界大会であるワールドマスターズゲームズが大阪を含む関西で行われ、そして2025年の万博開催へと続きます。ここ数年の外国人観光客の伸びと併せて、大阪を中心とした関西エリアにおいては一気に国際化の波が押し寄せます。関西エリアのみならず、これからみなさんは「内なる国際化」という言葉に象徴されるように、多様性に満ちた社会で生活をし、仕事をしていくことになります。

 国や宗教をはじめ、これまでの生い立ちや生活環境など様々の背景から、考え方や価値観の違う人たちと接する機会が多くなります。日本人どうしでも、意見の相違があるのですから、コミュニケーションをどう取るのかが問題になってきます。

 コミュニケーションをうまく取るには、まず相手をよく理解することが重要です。どんな人でも自分より良い面が必ずあるので、その良い面を探してリスペクトすることで相手に対する理解を深めてみては?と、これまでホームページの学長だよりに記してきました。また、その相手を褒めることでその場の雰囲気も良くなり、お互いを高めていくことにつながる、と学位授与式の場で述べてきました。新入生のみなさんにも「相手をリスペクトし褒める」ことをお薦めしたいと思います。

 そして今日は、この「相手をリスペクトし褒める」ということを少し違った角度から考えてみたいと思います。これまでは自分を主語として「相手をリスペクトし褒める」ということを私は伝えてきましたが、逆に相手を主語として考えてみることにします。つまり、自分の周りにいる相手の立場に立ってみて、その相手がいかにして自分をリスペクトしてくれるようになるのか、という視点を持ってみるということです。この視点は、自分自身がリスペクトされる対象となれば、自然とお互いを理解しあい、双方向の関係性が円滑に進むという考えが基本となっています。

 相手がリスペクトしてくれるような自分になるのは少し難しいなあ、と感じる人もいるかと思います。でもちょっとしたことでリスペクトされる状態に近づけるのでは、と私は思います。

 そのちょっとしたこととは、「自分自身を高めていく姿勢を見せる」ということです。そして、たとえ姿勢を見せることができなくても、「高めていこうと意識を持つ」だけでも良いと思います。そういう姿勢や意識づけは、自ずと周りの人たちに伝わります。伝わると同時に自分が周りの人たちをリスペクトすることで、周りの人たちも自分に対してリスペクトしてくれるようになるはずです。

 では、どのようにして自分自身を高めていけば良いのでしょうか?いろいろなやり方があると思いますが、私自身が実践していることをお伝えしたいと思います。

 それは、「今より少し高めの目標を掲げ実行し、目標を達成できたらそのレベルを少し上げて、次の目標を設定し実行していく。これを繰り返していく」というものです。

 先日、現役引退を表明したイチロー選手も会見の場で、ほぼ同じことを話していて、私自身、ビックリしたと同時に嬉しく思いました。ご存知の方も多いとは思いますが参考になると思い、彼が話した内容の一部を要約し紹介いたします。

(略)

 つまり、自分の目標、それは高すぎると挫折してしまうこともあるので、小さい目標を設定し達成したら少しハードルを上げていく。これを地道に繰り返すことで自分自身を高めていったのです。この地道な繰り返しは、時にはマイナス、遠回りをすることもあるけれど、自分が決めた目標に対して信じて歩んでいったということです。
 こういうルーティンが「自分自身を高めていく」ことにつながると思いませんか?

 大阪樟蔭女子大学では、学園の建学の精神を踏まえ、『知性美』『情操美』『品性美』の3つの『美』を通して社会に貢献する「美 Beautiful 2030」をスローガンにグランドデザインを提示しています。ここでいう『美』とは、単に外見上のものではなく、むしろ内面から醸し出される美しさであり、教養があり立ち居振る舞いに品のある洗練された『美』を意味しています。

 先ほど述べた小さい目標に向かい努力する姿勢が、まさしくここで言う『美』に当てはまると思います。目標をすぐに達成できなくても良いのです。遠回りをしても良いのです。ただ、小さな目標を超えていこうとする意識を持ち続ける習慣を、学生時代に身につけてほしいと思います。専門分野の学びを修得するとともに、学生時代にしっかりとした『美』を身につけ、社会で活躍、貢献できる女性に成長できるよう、われわれ教職員はできる限りのサポートをします。

 大阪・関西万博のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」です。20190401sakura.jpgまたサブテーマの1つは、「多様で心身ともに健康な生き方」です。2025年、みなさんが、健康で生き生きと輝く女性として多様性に満ちた社会で活躍していることを願い、平成最後の入学式の式辞の結びといたします。

 みなさん、ご入学、まことにおめでとうございます。

平成31年4月1日
大阪樟蔭女子大学 学長
北尾 悟

平成30(2018)年度 学位授与式 式辞

juyo.jpg 平成30年度の学位授与式を挙行するにあたり、大阪樟蔭女子大学の教職員を代表して大学院修了生ならびに学部卒業生のみなさんにお祝いの言葉を述べさせていただきます。学位授与、おめでとうございます。めでたく卒業の日を迎えられたみなさんを心から祝福いたします。そして、みなさんの学生生活を温かく見守り支えてこられたご家族をはじめ関係のみなさまと喜びを分かち合いたいと思います。
 併せて、後援会、同窓会をはじめご来賓のみなさまにはご多用のところをご臨席賜りまして、厚く御礼を申し上げます。

 さて、修了または卒業されたみなさんは、これから人生の新たなステージに向かっていくことになります。樟蔭で身につけた力を思う存分発揮し、活躍されることを願っています。ただ、これからの人生では、様々なタイプの人との関わりを持つことになるでしょう。考え方や行動様式も人それぞれです。他の人を快く思うこともあれば、場合によっては不快に感じることもあります。

 最近、私が不快に思っていることを述べます。それは飲食店やコンビニエンスストアで撮影された「悪ふざけ動画」です。当人たちは軽い気持ち、ノリで行っているようですが、仲間内で盛り上がっている様は見苦しく感じます。
 この「悪ふざけ動画」には色々な問題が含まれていますが、私が何よりも問題視していることは、食べ物を粗末に扱うこと、食べ物に対する畏敬の念が無いということです。
 食べ物は、ほぼ100%生き物が原料です。植物、動物や海産物など生き物から成り立っています。生き物、つまり、命あるものを私たちは食べているのです。命と一体である食べ物を雑に扱ってもらいたくないです。以前、私は食品企業で働いていたので、こういう気持ちが人より強いのかもしれませんが、食べ物のありがたみ、食べ物への敬意を払ってもらいたいと思います。
 また最近の傾向として、「インスタ映え」という言葉に象徴されるように、食べ物を中身よりも外見やそこに付随した情報がもてはやされる一種の食のファッション化、ポップカルチャー化している風潮にも警鐘を鳴らしたいと思います。もちろん、食べ物のありがたみを分かった上でなら、見栄えのよい飾りつけをすることには異論を唱えませんが、命ある食べ物を単なる「物」として捉えてほしくはありません。食べ物には命が宿っていたのです。その命を私たちはいただいているのです。
このように「悪ふざけ動画」や「インスタ映え」を通して、「食べ物」「食べる」とはどういうことか、みなさんに今一度考えてもらいたいと思い、この話を出しました。
 そして、この私のように不快に感じている人もいることに気づいてもらいたいのです。おそらく「インスタ映え」については、そこまで過剰反応しなくて良いのでは、と違和感を持った人もいるでしょう。でも社会に出たら、こういう考え方や感じ方が違う人たちと同じ時間を共有し仕事をしなければならない場面が多くなってきます。時には対立することもあるでしょう。そのことであなた自身も傷つくこともあるかもしれません。
 では、こういう時にどのように対処すれば良いのでしょうか?

 ここで1つの対処方法を伝えたいと思います。それは先ほど述べた「命ある食べ物を私たちは食べて生きている」ということから導いた私なりの対処方法です。

 われわれ人間も命ある生命体です。生命体である人間は他の命ある生命体を食べて生きている、いわゆる食物連鎖という大きな自然の営みの一つであり、自然界の一員であるということです。そしてこの自然界はわれわれ人間をはじめすべての生命体を包み込むスケールの大きな存在です。昨年、大阪でも自然の脅威にさらされました。地震や台風による風水害がありました。こういう自然の脅威にはわれわれ人間も含めすべての生命体は、為すすべもないということを思い知らされました。

 このような経験からも人間お互いちっぽけな一人、個人としてではなく、複数の人間からなる群(むれ)として自然と向き合わねばならないと感じます。より集団での社会行動が求められていると思います。集団での社会行動を円滑に推進するには、やはり人間同士のコミュニケーション能力が求められます。このコミュニケーション能力を培うには、相手の考え方や行動様式を少しでも理解することが必要です。理解を深める一歩として、まずはその相手には自分にない優れたことが必ずあるという前提に立って、優れた面を探し出し、リスペクトすることを奨めます。そしてその人を褒めるということから始めてはいかがでしょうか?

 「タイガーチャージ」と言う言葉、おそらくみなさんは知らないと思いますが、プロゴルファーのタイガー・ウッズ選手が全盛期の頃、試合の最終日に驚異的なスコアを出して逆転優勝するということばしばしばありました。なぜ彼は最終日に覚醒したかのようにプレーして勝利することができたのか?こういうことを研究した大学の研究者もいたようで、その人の研究成果によれば、非常に単純な理由でウッズ選手はトーナメントで勝利を重ねたと結論づけました。
 その理由とは、「他のプレーヤーの成功を悔しがったりせずに、どんな時も常に喜び褒めていた」ということです。当然、ウッズ選手も他のプレーヤーに勝ちたいので、他のプレーヤーが良いスコアを出すと負ける可能性が高くなります。ただウッズ選手は他のプレーヤーを褒めれば、褒められたプレーヤーは喜びを感じ、時にはそのプレーヤーからウッズ選手自身のプレーに応援してくれる可能性があることを意識もせず行っていたということです。そして何よりも競技の場、コースの雰囲気が良くなり、プレーに集中できたとのことです。まさに他者を褒めることこそが、自分の勝利への近道であることを示していたのです。現に、ウッズ選手は、
I just hoped for the best of the opponent, and try hard! I was cheering.
「わたしは、ただただ相手のベストを願って、頑張れ!と応援していた」
と言っています。

 同じスポーツの世界では、テニスプレーヤーの大坂なおみ選手も相手へのリスペクトの気持ちを伝えています。全米オープンの決勝戦では相手のセリーナ・ウィリアムズ選手に尊敬の念を表していました。また全豪オープンでも決勝戦の相手であるぺトラ・クビトバ選手に対しても優勝スピーチの最初に「ぺトラ、大変なことを乗り越えてきましたよね。おめでとうと伝えたいです」とまず相手を称えました。

 スポーツを例にとりましたが、相手を認め褒めることは、ある目標、目的に向かって社会生活を送る上で重要であると思います。それは、どんな目標、目的、どんな場面でも同じです。相手とのコミュニケーションが深まりますし、最終的には自分にプラスとなって返ってくることもあるのです。打算的なことは抜きにして、相手をリスペクトし褒めるということは素晴らしいことだと思いませんか!?

 樟蔭学園は女子学園として100年を超える歴史を積み重ねています。来年度、2019年度、大学は創立以来70年という節目の年を迎えます。大学では、2030年に向けてグランドデザインを提示し、「美(知性・情操・品性)を通して社会に貢献する~美 Beautiful 2030~」をスローガンとしました。
食べ物に畏敬の念を示し、自然界の中でちっぽけな一人ではあるが、他者をリスペクトし褒めることを通して、多くの人たちと共に生きることをみなさんに心がけてもらいたいと思います。こういう心がけも一つの内面の美しさです。その内面の美しさ、美を通して社会に貢献する女性を育てていくことが、大阪樟蔭女子大学の使命であると考えています。

sakura.jpg 今、まだ堅いつぼみの桜も、あと一週間もすれば花を咲かせ始めるでしょう。その一週間後には満開となるでしょう。みなさんのこれからの人生も桜の花のように満開の希望の花が咲くことを願って、平成最後の学位授与式の式辞の結びといたします。

平成31年3月14日
大阪樟蔭女子大学 学長 北尾 悟

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