大阪樟蔭女子大学公式サイト 学長だより 北尾悟
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一見、関係なさそうなところから

 遅ればせながら、樟蔭学園の創立記念式典が10月28日、無事終了しましたことを報告いたします。多くの方のご列席を賜り、暖かいお言葉と励ましをいただき感謝した次第です。前回のこのたよりでも紹介しましたが、今後、皆さまのご期待に副うべく大阪樟蔭女子大学として将来あるべき姿を想定し提示したグランドデザイン「美(知性・情操・品性)を通して社会に貢献する~美 Beautiful 2030~」を具体化するよう努めていきます。

 私は大学を卒業して醸造食品会社の研究所に勤めました。醸造とは微生物の力を利用することですので、この力を活用した食品開発、特に新しい機能を付与した製品開発に関する基盤研究に日々取り組んでいました。研究を進めるためには、微生物に関する知識を身につけねばなりません。これまで構築されてきた「微生物学」の基礎や応用に関する書物や論文を読むことは当然のことながら、学会やセミナーに参加し自分が知らない知識、あるいは自分がまだ身につけていない技能を貪欲に高めようと必死でした。

  ある日、微生物に関する論文がまとめて掲載されている雑誌(ジャーナル)を見ていたところ、鞭毛運動の論文を見つけました。食品開発には直接関係ないのですが、妙に面白くて読みふけったことを今でも覚えています。大腸菌などの微生物ではらせん形の鞭毛を回転させながら移動していきます。その際、鞭毛の細胞膜を介したイオンの電気化学的勾配をエネルギーとして利用しているとのことでした。読んでいるうちに、この仕組みを利用したら「微生物モーター」が開発できる、あるいは、電気化学的勾配という言葉から「微生物発電」の可能性があるのでは?とこのとき思いました。微生物利用の可能性の広がりを感じましたが、なんせ食品企業に勤めていたので、そのときはそう感じたままで過ぎてしまいました。

 先日、ネットを見ていたら「微生物発電」という言葉を見つけました。いろいろ調べていくと、なんと「微生物発電キット」がネット販売していることも知りました。現在、この分野の日本における研究の第一線で活躍されている一人が、東京薬科大学の渡辺一哉教授だそうで、微生物が土中の有機物を分解する際に放出する電子を電極で集めて発電する実験を水田で実施しているとのこと。もちろん、実用化に向けては大規模化やコスト面の課題を克服していかねばなりませんが、着実に技術開発は進んでいるようです。

 以前ならあまり関係なさそうなあるいは実現が不可能に思える組み合わせでも、科学技術の進歩や環境の変化に伴い、関係性が生まれ実現化することが今後、どんどん増えてくることが予想されます。金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)を組み合わせた造語であるフィンテックという言葉をご存知の方も多いでしょう。IT技術などの進展により、これまで関係性が薄かった金融と技術の組み合わせから、お金との新たな付き合い方も含めて私たちの生活が今後影響を受けることになるでしょう。

 このように、新しい産業や文化が生まれてくる背景には、異質なものの組み合わせが隠されていることが多いようです。新しい産業や文化が生まれるということは、新しい仕事、新しい生活のあり様や生き方にもつながってきます。これからの世の中、「将来の変化を予測することが困難な時代」になるとの見解がありますが、その時代を生き抜くためには、一見関係なさそうなものの組み合わせを考える柔軟な思考回路、それを理解する意欲と能力、そして、それを自分のものとして上手に活用する姿勢が大事なように思います。

 得てして、人は安心感からか、これまで通りの考えや行動に陥りがちです。このことが悪いというつもりはありませんが、今後、特に将来にわたり長く人生を歩んでいく若い人たちには、一見関係が無いような組み合わせを考えてみることを一つの例として、柔軟な考えで世の中を見てほしいと思います。

 今年もあとわずか。皆さんにとって来年、「ワン」ダフルな一年になることを祈っております。良い新年をお迎えください。

北尾 悟

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