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人の役割が変わる?

 先月の地震、そして今月の集中豪雨、自然に畏怖を感じる今日この頃です。災害の影響は人の想像以上に続いており、お亡くなりになられた方とご家族にお悔みを申し上げますとともに、被災され大変困難な状況におられる皆様には、心からのお見舞いを申し上げます。
 学生の皆さんも休講の都合による補講の設定、ならびに試験日が変更となり、落ち着かないと思います。また猛暑、いや酷暑と言ってもよいくらい厳しい気候状況で体調管理も大変でしょうが、しっかりと対応してくれることを願っています。

 一般社団法人全国高等学校PTA連合会と株式会社リクルートマーケティングパートナーズが共同で「高校生と保護者の進路に関する意識調査」を行い(リクルート カレッジマネジメント210/May-June. 2018)、その設問の一つに「人工知能(AI)などの技術革新・発達は将来に影響あると思うか?」がありました。これに対して高校生の52.0%が「影響がある」と答えています。「生活が便利になる」「人手不足を解消する」「新しい仕事が生まれる」等メリットを感じている反面、近い将来、「人間の仕事が奪われる」という職業選択・雇用への影響を懸念する自由回答がありました。

 「AI(ロボット)が人間の仕事を奪う」。果たしてそうなるのでしょうか?AIに限らず技術の進展によりこれまでも人間が携わる仕事は確かに変化してきました。例えば、農機具の導入により農家の方々の作業が変わったり、自動改札機の普及によって切符切りという駅員さんの仕事がなくなり別の業務へシフトしました。昨今のロボットやコンピューターが仕事を奪うという脅威論は、これまでの技術革新・進歩とは違い、すべての仕事がなくなると捉えている人もいるようです。

 AIは、探索と推論を得意としています。「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを牽引してきた国立情報学研究所の新井紀子教授は、AIは「検索と最適化のスキルを持っていて、日々新しい情報が得られるとどんどん蓄積していく能力を有している」と、講演で話されています。私も先日、新井先生の講演を聴講したのですが、「新しい情報を蓄積する能力」がこれまでの技術の進展と大きく違うところだと感じました。一例を示しますと、田植え機が開発されたときは、ここまでは機械が行い、この部分はまだ人間がしなければならない、ということがはっきりしていました。新しい技術ができる部分とできない部分が明確に分かれていて、そのイメージは皆共通に認識していました。それに対し、AIは「新しい情報を蓄積する能力」を有することから、日々AI自身の能力が変化します。AIの情報量は新しい体験をするたびに増えていき、人間のそれをはるかに超えていき、その差は開くばかりです。このようなことから、AIができることできないことの境界がはっきりしないことが予想されます。また皆の共通認識を構築することも難しいでしょう。ですから、「人間の仕事が奪われる」というAI脅威論が高まっているのだと思います。

 ところで、AIロボット君は東大の合格圏内に達したのでしょうか?新井先生のプロジェクトでは結局、東大にAIロボット君は合格できないと結論づけました。「検索と最適化」のスキルは優れているけれど文章読解力レベルが向上しなかったとされています。膨大な情報量から複数のキーワードを検索し、それらを統合して最適と思われる解を導くことは得意ですが、問題文の内容を「理解」することは不可能だとのことです。言ってみれば、確率の高い当てずっぽう能力を備えたロボットだということです。もちろん、その確率は知識量の増加や検索し抽出した複数の事例のネットワークによる最適化作業により高まっていきますが、根本的に問われていることに対して直接的に理解し答えようとはできないということです。

 ここにAIの限界がある、裏返せば人間が人間であること、そして本当の意味での人間の仕事は何かのヒントが隠されていると思います。2045年にいわゆるAIが人間の知性を超すタイミングとして「シンギュラリティー(技術的特異点)」という言葉をアメリカのレイ・カーツワイル博士が唱えていますが、AIが指数関数的に大きく進化し、私たちの生活がどう変化するのか、予想がつかない状況になるのかもしれません。しかし、いくらAIが進化しても人間にはなれないし、人間でしかできない部分は絶対残ると私は信じています。
 今後、記憶や検索、そしてグループ化や最適化に関してはAIに任せ、そうでない分野を人間が担うようになるでしょう。よくよく考えてみると、AIが得意な分野は人間には不得意な分野であり、この分野を人間が担おうとすると結果的には、これまでの単純作業や決まり切ったルーチンワークの域でしかなかったと思います。また、ほんとうに単純な作業やルーチンワークは今後の人手不足と相まって、どんどんAIロボットに置き換わるでしょう。もっともAIを使わなくても済むことかもしれませんが。そう考えると、人間は単純労働から解放され、付加価値の高い創造的な活動に時間を費やすことが可能だということを示しています。ただし、これまでは決まった作業をしていれば労働の対価(お金)がもらえた時代から、自ら能動的に付加価値を創造できる活動をしないとお金がもらえない、生活できない時代へと変化していくことを意味しているのかもしれません。前向きに考えて、AIの進歩により新たな仕事が生み出される可能性もあります。人間が行う仕事のキーワードは「コミュニケーション能力」ではないかと思います(これまでの「学長だより」を読んでいただければと思います)。この能力はAIでは修得できないからです。

 繰り返しになりますが、将来、人間の仕事のある部分はなくなる、つまり、AIロボットが得意とする分野に関する仕事がなくなるでしょう。ただAIではできない部分、それはなくならない、いやこれからの世の中、新しい仕事が生まれてくるでしょうし、求められる仕事の質が変わるでしょう。人の役割が変わります。これから生きていくためにはどうすれば良いか?学生の皆さんには学生時代にこのことを真剣に考えてもらいたいですし、大学もサポートできる環境を備えていかねばならないと思います。人生100年時代、生き抜く考え方を大学で身につけてもらいたい、いや学生時代に身につけられなくても、そのヒント、きっかけを掴んでほしいと思います。

北尾 悟

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