平成28(2016)年度 学位授与式 式辞
2017年3月14日
平成28年度の学位授与式を挙行するにあたり、大阪樟蔭女子大学の教職員を代表して大学院修了生ならびに学部卒業生のみなさんにお祝いの言葉を述べさせていただきます。学位授与、おめでとうございます。そして、みなさんの学生生活を支えてこられたご家族をはじめ関係のみなさまには、こころよりお慶びを申し上げます。また、後援会、同窓会をはじめご来賓のみなさまにはご多用のところをご臨席賜りまして、厚く御礼を申し上げます。
さて、先ほど、私は「学位授与、おめでとう」と言いました。大学院生は「修士」、学部生は「学士」の学位が記された『学位記』を本日晴れて受け取りました。この『学位記』は、「それぞれの専門分野において、高い知識と優れた技能を修得した」という証明書です。これを受け取ることで学業の過程のひとつの区切りとなりますが、これで勉強をしなくてよいということではありません。普通は「卒業おめでとう」と言うところですが、「卒業」という言葉を使うと、もう終わった、あとは何もしなくて良いと捉えがちになるので、あえて「学位授与、おめでとう」と表現しました。
明日からはみなさんは、これまでとは違い、いやこれまで以上に自分の力で生きていかねばなりません。今、そのスタートラインに立っているのです。これまでは比較的狭い世界で同じような考えを持った人たちと接してきた面が強いかと思います。またもしどうしても相容れない人がいた場合、その人を遠ざける、あるいは、相手にしなくても何とか生活することができました。でもこれから進む道には、これまで以上に様々な出来事に遭遇し、困難な場面も経験することになるでしょう。どうしても合わない人と行動を共にしなければならないこともあるかもしれません。
そのようなときにどうするのか?解は1つではありません。場面々々で違います。何とか対処法を生み出すためには、今まで以上に色々な知識と技能を修得していかねばなりません。社会生活や世の中における勉強は、これまでの学生生活における学びとは違います。これまでとは質の異なる学び、例えば対応力など様々なことを学んでいかねばなりません。
このことを示している一つの事例を紹介します。現代社会の抱えている問題です。
昨年は世界でいろいろな動きがありました。英国のヨーロッパ連合(EU)離脱やアメリカのトランプ大統領誕生などその代表だと思います。これらの動きの陰には「フェイクニュース」という問題があります。「フェイク」つまり嘘、偽物の情報、ニュースの影響で、英国のEU離脱の是非を問う国民投票やアメリカ大統領選の投票結果が大きく変わったと言われています。
例えば、アメリカ大統領選挙では「ローマ法王もトランプ氏を支持」というニュースが大量にネット上に出回りました。もちろん、この情報はフェイクですが、この情報を信じた人が多くいたという事実があります。今は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)による情報が瞬く間に多くの人たちに伝わり拡散する世の中です。なぜ、多くの人がこのフェイクニュースを信じ、また拡散させてしまったのでしょうか?
「自分が興味のある情報だけを受け取る人たちが増えている」という指摘をNHKクローズアップ現代の番組で紹介していました。携帯スマホが普及し、テレビのニュース番組を見たりせず、新聞も読まず、ニュースをほぼフェイスブックなどのSNSから知る人が急増しています。SNSで情報を得ることが習慣になると、自分と異なる考えや、知りたくないニュースがだんだん煩わしくなり、設定を変えて自分の好む情報しか届かないようにしたりできます。「いいね」を押したり、シェアしたりすると、良く似た傾向の記事ばかり表示されるようになります。そうなれば、多くの情報を得ているように見えて、実は多様なニュースや意見、考えが得られない状態になってしまうのです。
フェイクニュースを発信している人たちは、そう深く考えず単にパロディ、軽い気持ちでニュースを作っているようです。彼らからすれば、嘘を真実と受けとめる社会に問題があると思っているでしょう。見出しだけで中身を読まずに想像して拡散する人達がたくさんいる、そして、真実かどうかはどうでもよく、自分が信じたいと思うことだけが目に入る人たちが問題なのだと、見ているようです。
確かに携帯、スマホは便利ですね。この場のおそらくほとんどの方は今、身につけているでしょう。いろいろな機能があり便利ですね。その便利な機能の1つとして、SNSが挙げられるでしょう。この機能を否定するつもりはありませんが、使い方を誤ると大変なことになることを忘れてはいけません。たとえフェイクニュースを作って発信しなくても、そのニュースに「いいね」やシェアすることで、フェイクを拡散し、あなた方も誰かを悩ませたり、場合によっては傷つけたりと、加害者にもなり得るということを自覚してください。
では、こうした状況に私たちはどう対応すべきでしょうか?当然のことながら、得られた情報が真実かそうでないかの見極める力が必要です。つまり情報の信頼性をどう見分けるかが大事になってきます。情報源が限られている状況や、自分の好きな、あるいは感じが良さそうな情報しか見ない、という姿勢を改めねばなりません。SNS以外の情報源、たとえば新聞やテレビのニュースなど種類の異なる情報ネットワークを構築することから、まず始めましょう。
また、自分と意見が違う人とも議論をしましょう。社会人となる皆さんは、違う立場の人たちとコミュニケーションを取らなければなりません。仕事を通して日々、いろいろな人たちと話し合い、こういう考え方があるのだ、こういう見方があるのだ、または、こういう対応方法があるのだ、と考えさせられることになるでしょう。このように話す経験を多く積むことで自分の頭で考え、悩むことが結果として自分自身の成長につながると思います。考え悩むことを継続していると、『自分』というものが自然とできあがってくるものです。『自分』というものが確立されるということは、「自分の考え」がしっかりしているということです。そうなれば、フェイクニュースがたとえ飛び込んできても、これは偽情報だな、と判断し相手にしなくなります。
あの俳優の渡辺謙さんは、考え悩み続けることができるのが、自分の才能なのかな、と思っているそうです。
フェイクニュースにいかに対応すべきかについて話をしましたが、これらは世の中をどう生きていくのか、社会生活における指針とも言えるでしょう。
今一度、繰り返します。
1つは、情報のネットワークを広げる、多種多様な情報源を持つよう心掛けてください。
そしてもう一つは、立場、考えの違う人たちと話をする、このことにより考え方のバリエーションを増やし、自分自身で考え悩むことで、自分を確立してください。
これらを皆さんへの「はなむけ」、といたします。
今年、樟蔭学園は創立100周年を迎えます。これまでの99年の歴史をしっかりと受けとめ、良き伝統と誇りは守りつつ、現代社会に対応したしなやかな変化も必要です。皆さんが「学んでいい大学だった」と振り返ってもらえるよう、教職員一丸となって様々な改善に取り組み次の100年への礎を築いていきます。皆さんには温かく、そして時には厳しく大阪樟蔭女子大学に関わりを持ち続けてもらいたいと思います。
最後に、皆さんが、大阪樟蔭女子大学大学院ならびに大学で学んだことに自信と誇りを持って、大きく飛躍し、様々な方面で活躍されることを心より祈念し、私の式辞といたします。
みなさん、改めて学位授与、おめでとうございます。
平成29年3月14日
大阪樟蔭女子大学 学長
北尾 悟