第3回 学長対談
【北尾学長】
本日は、お忙しい中貴重なお時間をいただきありがとうございます。
今回、ざっくばらんにお話しをさせていただきたいと思っております。学生のこと、大学のこと、グランドデザインの印象なども聞かせてもらいたいと思っています。
【江川先生】こちらこそわざわざお越しいただき、ありがとうございます。
よろしくお願いします。
【北尾学長】大阪樟蔭女子大学は、1949年新制大学発足時に誕生、今年70周年を迎えます。一昨年、母体である樟蔭学園が100周年を迎える節目の年で、グランドデザイン「美 Beautiful 2030」を策定しました。本学で学ぶ学生には、前向きに物事をとらえて行動する、相手の立場を理解して自分の考えを持っている、あるいは変動する未来をしなやかに生きる、そのような自立、自らを律する女性にという願いをこめて今後の方向性を提示しています。江川先生は長年講師としてお越しいただき、確かもう15年になりますね。
【江川先生】そうですね。樟蔭はもう長くなりますね。
【北尾学長】当時は被服学科(現:化粧ファッション学科)でしたが、非常に身近なロールモデルとして学生に慕われています。この機会にじっくりお話しをさせていただきたいと思いますのでよろしくお願いします。
【北尾学長】基本的な質問ですが、特殊メイクとはどういうものかを簡単にお聞かせいただけますでしょうか?
【江川先生】いろいろあると思いますが、一言でいえば、メイクとは人の顔をキャンバスに描く発想だとすると2D(2-Dimensions)、それに対して、特殊メイクは3D(3-Dimensions)なんです。なぜかというと、人工皮膚など作って直接肌に貼って、それをさらにメイクをするので立体メイクだと私は感じています。そういう意味で3Dメイクアップだと。誤解があるといけないので申し上げると、デジタルメイクとかそういうのとはまた違いますね。
【北尾学長】デジタルメイクとは、ある姿を忠実に再現する意味でよろしいですか。
その人に対して立体的にこぶを作るとか、そういう風な部分が特殊メイクの特徴・・・
【江川先生】“このままペイントするのではない”という意味です。例えば、老けメイクを頼まれるとまず役者さんの顔型を取る、顔の土台を作って彫刻する、型を作る、型に人工皮膚の素材を流す、その人工皮膚を貼ってメイクを完成させるわけです。一番正統派の特殊メイクといわれるものですが、それを自然にみせるのが技術です。
貼っていることがバレると失敗、ダメなメイクです。見た目、自然に見えることが正解ですね。坊主メイクを施した役者さんが、「ほんとに剃ったんですね。」と目の前で言われたときは、リアルにできたとお褒めをいただいた感じがしてうれしかったです。 “自然”であることがテーマなんですよ。
【北尾学長】坊主メイクなら、カツラかぶっているとわかるようじゃ、全然・・・。
【江川先生】ダメだと思います。メイクとわからないことが最高にいいものになりますね。
【北尾学長】先生は、年齢・性別・人種に関係なく、ある意味どういう方でも、注文があればどんな形でもメイクを施していく、本当にプロだなと思いますね。
ここにも様々なお面(フェイス)がありますけれども、施術の際、役者さんとのコミュニケーションが大事になると思いますが、そのあたり何か心がけておられることがありますか?
【江川先生】やはり1時間、ものによっては1時間半メイクを一気にやります。その間、人によっては朝早いと寝ちゃう方もいらっしゃるので、快適にリラックスして準備ができるように心がけています。あまり余分な話はしない方がいいとは思うんですけど、相手次第ですね。
相手の方がどんどん話されたら、お応えして楽しく明るい感じでメイクに入ります。中には、「台本読ませてもらっていい?」っておっしゃる方もいます。そういう時は邪魔をしません。要は、空気を読むということです。また ある程度キャッチするアンテナも必要なんです。相手を知ってどういう風に対応するか瞬時に考えられる柔軟性も必要だと思います。そういうものがなくて、ただおしゃべりすればいいということではないですね。
【北尾学長】おしゃべりすることが、コミュニケーションじゃないですからね。
【江川先生】気持ちを汲む、空気を読むことがすごく大事だなと思います。
【北尾学長】例えば、歴史上の人物の特殊メイクをする場合、ストーリーをしっかりと読まれて “どういうメイクをしようか”練って準備、臨まれる・・・。
【江川先生】もちろん 。
【北尾学長】非常に念入りに台本を読む、歴史上の人物であれば、時代背景や生き様、考え方などしっかりと把握する・・・。
【江川先生】そうなんです。重要なのはもちろんストーリーで、いろんな役がある中でどういう役なのか、悲惨な感じなのか、歴史上の人物であればまず最低限の把握をします。
でも次に重要なのは、役者さんは誰で、“どんな風にするか”ということです。決める際に、その人の輪郭、持っている魅力を活かさないとだめです。
大半の場合、私は役者さんを活かしたメイクを心がけていて、似せるけれどもテイストは残すという、ちょっと微妙なところをいつもいろいろ考えながらやっています。
【北尾学長】似せるけれども、その役者さんの良さを残すということですね。
【江川先生】そうです。老けメイクをした姿を見ただけで、「あっ、この役者さんが老けたんだな」ってやっぱりわからせたいわけです。
すごい老けた顔をつくるのは簡単なんですよ。実際に80・90・100歳になれば若いときの顔と比べてわからなくなるし、人工皮膚を顔全体に貼るので、“誰の顔?”みたいに。それなら実際の年齢の人を使えばいい、誰でもいいみたいになりがちです。
役者さんの中には、リピートしてくださる方もいるわけで、その役者さんを活かすのが自分のメイクの持ち味かなと思います。
【北尾学長】役柄の部分と役者さんのマッチングが重要になるということですよね。
役者さんとのコミュニケーションが大事ですね。江川先生ご自身、ポリシーとは言わないまでも、やり方、接し方を持ってらっしゃると思ってお聞きしました。
【江川先生】そのためには、相手が何を望み、どうやったらいいか「聞く」ことからかもしれないですね。
【北尾学長】同じ役柄でも、役者さんによっては当然その人のテイストを残した形にしようとすると、微妙にメイクが違えることになるわけですよね?
【江川先生】そうです。主役級の方の場合、重要度が高いため、事前打ち合わせの時間も十分あるし、テストメイク可能なカメラテストもできることが多いです。
でも“来週ひとり老けさせてください。”みたいな、めちゃくちゃな場合もあります。最善を尽くしてやっているので、それなりにはできますけれども。
【北尾学長】全くもって知らない役者さん、全然面識がない方、新人などメイクする場合もあるわけですね。
【江川先生】幸い経験が長いですから、引き出しがいっぱいある、応用力には長けているので、どんな依頼が来てもある程度は対応できると思います。その場合、お会いするとか写真を見た感じで判断します。見たときに“この人こういう感じにしよう”みたいなインスピレーションがあって、それが望まれるメイクに近ければOKかなと思います。
【北尾学長】映画『おくりびと』ですが、私は、実は劇場も通ったし、テレビも二回ぐらい見ました。あのご遺体メイクについてもその人の人生、生き様、歩んできたことも表現していると思いました。
【江川先生】有名な役者さんはともかく普通の名もなき人たちへのメイクも、基本的に同じです。
その役がどういう人生を歩んでいるか考えますけれども、その人の感じを生かすパターンと、あとリアルであることは追求しています。自然に見えないとやる意味がないと思うので、そこが一番重要なことといつも気にかけてやっています。
【北尾学長】ところで、そもそも特殊メイクの世界に入るきっかけは、ご主人のアメリカ転勤ですよね?
【江川先生】それを語るには、もうちょっと前を語らないと(笑)。
実は、私の周りに早くご主人を亡くして大変な思いをされている方がいらっしゃって、中学・高校ぐらいから女性は職業をもって自立しなければいけないという意識があったんです。
それで、ちゃんと試験も受けて文化出版局装苑編集部に通って、一年半後ぐらいに結婚したんです。
夫に海外勤務があると思わなかったので、自立への第一歩を踏んでまだ三年足らずなので驚きましたが、“アメリカなら五年ぐらい住んでもいいな、一緒に行こう!”と決めたわけです。そのとき“向こうにいる間に、何かちゃんとした技術を身につけたい”と漠然と考えていました。向こうに行って色々見聞を広めて、英会話力も高めていくなかで、映画は言葉を覚えるのにすごくいいし、好きだったので夫とともによく行ってたんです。そんなとき『狼男』を見て、狼に変身した姿がすごくリアルで、“どうやっているのかな?ちょっとやってみたいな。特殊メイクはこれから面白いかも”と単純な興味で足を踏み入れ、今まで続いています(笑)。ただ、前から特殊メイクという職業があって、ハリウッドに学校もあるらしいことはうっすら気がついてたんですけどね。
【北尾学長】いろんな選択肢があったと思いますが、どの場面でも自分の気持ちに、ある意味正直というか素直にしなやかにスーっと入っていくイメージが先生にはありますね。最終的に特殊メイクの世界、リック・ベイカー先生に師事されましたが、そこに至るまで色々葛藤、悩みとかあったんでしょうか?
【江川先生】意外とないんです。何故かわからないけど、20代という若さもあり、やりたい気持ちが強かったせいか、とにかく突入したらあたってくだけろ、だめもとでもチャレンジみたいな精神とかむくむく出ていたんです。それまでは意外と地味、積極的なイメージは自分になかったんです。周りからは“そうでもない”と言われていましたが(笑)。
積極性が生まれたのはアメリカに行ってからですね。アメリカってやっぱりメルティング・ポット【melting pot】、様々な国の人が集まっている国で、リタイアした英語の先生が5ドルとか安い金額で英会話を教えてくれるんです。そこへ行くと、みんなすごくしゃべってるんですよ。最初耳馴れない頃は、“こんなに喋るのになんで来ているのかなあ”と思っていたんですが、馴れてくると“上手じゃなくても言いたいことを一生懸命言うことは、こういうことなんだ”と思うようになりました。“格好つけてる場合じゃない。”そこからまず殻がとれていきました。アメリカで生活していこうという周りの意識がすごくて“そういうパワーを感じてやれるだけのことはやらなきゃ人生無駄にする”みたいなことを学んだわけです。“目標はリック・ベイカー氏。”ということで、ほかのお仕事にいろいろチャレンジしながらベイカー氏にコンタクトして三回目に。まさしく三度目の正直です。
【北尾学長】一回で行くわけがないですよね。ベイカー氏はアカデミー賞の第1回目の受賞者でしたね 。
【江川先生】ええ、アカデミー賞を受賞した方ですから。最初から、これぐらいの技術で雇ってくれるわけがない(笑)。当然アメリカ全土から若者が来ているんですよ。簡単じゃないと思って諦めちゃったら終わると思ったので、とにかくきっかけを掴んで頑張りました。それでゴーストバスターズのマシュマロマンを作っているときに見学でいらっしゃったんです。以前に2回会っているから、“覚えていますか?すぐ終わってまた面接行きますからよろしく。”って感じで。だから、やるだけのことやらないとだめっていうことが、すごくあります。
もうひとつのきっかけは、フランスから学校へ勉強に来ていた女の子、怖いもの知らずなんですよ。フランスで普通のビューティメイクをしていたけど、特殊メイクやりたくて来たそうです。私がちょっとでも引っ込み思案なこと、ネガティブな発想をすると、「なぜ?だって私たちこうやってなに不自由なく会話して、どうして私たち仕事もらえない?逆におかしいでしょ?」と言ってくれます。自分の力を自分で試すしかないと学んだことが大きかったです。
【北尾学長】お聞きしていると、フランスの友人がいたからでしょうけど周りの環境をうまく活用しながらしなやかに歩く、自分の考えを受け身ではなく前向きに上手い具合に活かして能動的に行動されるんだとわかりました。そういうことが今、若い人たちを中心に、薄れてきているのかなと思います。
【江川先生】海外とか行きたがらないと言いますもんね。
【北尾学長】江川先生のお話、今後学生へのメッセージとしてしっかり伝えていただきたいし、我々も別の形で伝えていくことも大事だと思いました。実際に仕事をしていく上で一番気をつけていること、大事なポイントがあったら教えていただけますか。
【江川先生】1つはやっぱり技術。技術・クオリティは大事です、技術をちゃんと磨く、必ず落とさない。そういうことで紹介してくれたり、仕事がきたりしますから。“1ミリだって落としてはいけない、ハードルは毎日上げなさい。” とスタッフみんなに言っています。人間関係は、すごく大事だから二番目に重要。そうやって口コミで仕事をいただいたりします。最後にもう自分は運が良かったって思っているほうなので『運』かなって思います。
【北尾学長】『運』を引き寄せるということも大事ですが・・・。
人間関係と確かな技術を持つこともあわせて3つ、当然関係性は強いですよね。
【江川先生】それは確かに。どれひとつかけてもダメですね。仕事が仕事を呼ぶこともあるし、いい仕事をすれば、評価されて別の仕事に繋がるものですから大事にしています。
【北尾学長】1つ目の『技術』ですが、ほんとに日進月歩といいますか、特殊メイクの世界はどんどん進歩、あるいは新しい技術や素材が生まれますよね。先生は日々、どのようにして情報を集められているのでしょうか。時にはアメリカに行ったり、人に会ったりして取り入れるのでしょうか?
【江川先生】もちろんです。それをやらないとこんなに長くやってこられなかったと思いますね。やはり、素材って変わるんですよ。アメリカでいいものがどんどん出てくるのでタイムリーに取り入れないと。
映像の画質がよくなって、例えばテレビでは4K、8Kなどすごいことになっているし、それに耐えられるだけのものを提供するとなると絶対いいものを選ばなきゃいけません。当然それを扱う技術も必要なのでとどまることがないんです。ずっと続けている感じですね。ただ、みんながアイデアを出してくれます。私の会社独自のやり方もあるし、様々なやり方があります。総合的に素材と技術を高めることですね。使う人はそういないんですけど、スキャナーと3Dプリンターを特殊メイクに取り入れたのも、そのひとつ。従来のやり方だと、息苦しい、閉所恐怖症だから嫌だというところを “ぴったりフィットするものが作れない”と役者さんにお願いしていたんですけど、これなら時間も短縮できるし、楽です。
【北尾学長】そうなんですか?
【江川先生】造形物をスキャニングして大量生産するのはありますけど、特殊メイクとして使うのは初めてですね。
【北尾学長】この世界では日本で先生が第一人者だと思うんですけど、アメリカと日本で違いはありますか?
【江川先生】基本的には同じです。素材、やり方、高画質への対応など、私たちのレベルがそんなに低いことはないと思います。ただアメリカは、やっている人が多いので全体的レベルでいうと・・・。
【北尾学長】裾野がちがうんですかね。
【江川先生】私も学校に指導にいったりしたので、日本もかなり広がったんですけどね。
【北尾学長】江川先生の活躍する姿をみて、この世界に入ってくる人、結構いらっしゃいますよね。
【江川先生】いますね。実際言われたりします。あと、アメリカはやっぱり時間と予算が違う。時間が取れるときはたっぷりとるし、うらやましい(笑)。
去年、アメリカのアカデミー賞で受賞した日本人の辻くんも、2年ちょっとここにいたんですけど、アメリカに渡ってから本格的に技術を磨いたと思うんですね。それだけ奥が深いというか、土壌が広いです。
【北尾学長】基礎をしっかり学び、向こうに行って環境と辻さんの才能・考え方がマッチングしてひとつの成果として賞をいただいたかと。そういえば、先生も日本のアカデミー賞で受賞されましたね。
【江川先生】はい、協会特別賞をいただきました(笑)。
【北尾学長】大学のことに話題を移します。うちの学生さんの印象はどうですか?
【江川先生】全体的に、今の若者はちょっと消極的かなと思うことがあります。なんとなくやってなんとなく終わっているような感じの学生が多いので “こういう環境で勉強しているのだから、今度はこんなことしたらどう?”とお話ししています。自分がたまたま海外に行ったからですけど“もう少し、みんな元気だせよ!”と感じますね。外から日本を見る、客観的に日本人を見ることができるのは、すごく大事ですから。
【北尾学長】固定観念に捉われず、様々な環境に自分の身を置いてみて考えて判断するような、そういう意識ですよね。
【江川先生】今はやっぱり、若者の意識に『日本人』というのもないですよ。スーッといて、当たり前に普通に便利に生活して終わる、でも一歩国外に出たら、パスポートがなければだめだし、嫌でも日本人ということを意識せざるを得なくなる、そういった環境は大事で、自分を客観視できるし、その国の人たちがどう日本を思っているか実感します。
私も海外へ行ってはじめて“あっ、そんな風に思っているんだ”と学ぶことが多かったので、そういうことを知る意味で体験することが大事です。
【北尾学長】そういう意味で、前向きというか、受身ではなくて自分から能動的に行動してみるという感じですね。
【江川先生】それは大事だと思います。外国人受入についても、確かに日本は狭い国ですけど、様々なところに色々な国の人がいるのだから、そこで上手く共存していく方法を学ぶほうが未来に向かっている気がするのです。今の若者たちは、そういうことを考えるような機会もないんですね?
【北尾学長】そういう機会を与えるべきと思います。今後本当に国境なきボーダレスの国際社会ですからね。何かこうチャンスを与えてあげる、そのきっかけになる考え方を気づかせるような教育というか・・・。
【江川先生】そうなんです。そうすると、たまに海外に行ってやりたいという積極的な子も出てきますよね。去年、ひとりいましたよね。
【北尾学長】昨年、『トビタテ!留学JAPAN』※に化粧ファッション学科4年生が選出されました。
英語が得意じゃなかったと聞いていますが、それでもいいと思っているんです。
※「官民協働海外留学支援制度~トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム~」の第9期生(多様性人材コース)に合格、2018年秋よりアメリカ・ロサンゼルスに留学。
【江川先生】英語は、アメリカに行ってからでも学べますから。準備を整えていこうと思ったら、なかなか大変なことですよ。
【北尾学長】様々な段取りを踏んで準備しているうちに気持ちが変わる学生が多いと、正直思ったりします。
【北尾学長】ところで本学の化粧ファッション学科ですが、日本の大学でも非常に珍しい学科です。もちろん大学なので専門学校とは違うコンセプト・カリキュラムですが、江川先生からみてどういう風に思われているか、教えてもらいたいと思います。
【江川先生】ファッションと化粧、メイクアップとかそういうのが融合して、トータルファッション。重要なことだから、上手いことネーミングされているなと思いました。
【北尾学長】大学の化粧ファッション学科なら、こういう学びがあり、ほかと違うところを見せて、特徴づけあるいは差別化をしていければと思っています。そのために、学びの体系など今後しっかりと構成しないといけないと考えています。
【江川先生】そうですね。ほかにないですし。特殊メイクをちょこっと取り入れている大学は結構ありますが、皆さんまだ特殊メイクを特別に捉えているところがあります。難しいですね。専門に取り入れるには様々な機材や期間が必要になってくるし、そうじゃない範囲ではベーシックなことしか教えてあげられないので。
【北尾学長】特殊メイクというと、一般の人から見れば変装というイメージがあると思います。
冒頭でもお話しをしていただきましたが、単にうわべだけじゃない、実際に施術をするときにでも役柄とか生き様、メイクをする役者さんとのやりとりなど、むしろ内面のほうをしっかりと捉えないと上手い具合に成果が得られないと思います。
大学ではテクニック・技術的なことが中心になるのではなく、内面も含めてのトータルの装い、トータルビューティというところでの特徴づけをしていけたらと思っています。ですから、グランドデザイン「美 Beautiful 2030」も、アウター(外側)だけでなくてインナー(内側)もあわせて上手く調和をさせたうえで女性として社会で活躍してほしい、4年間でしっかりと自分自身の生き方を捉え、捉えきれなくても意識し続けて活躍してほしい、そのきっかけづくりの意味を強く感じています。
【江川先生】ビューティって言っても、人間の生き方そのものという捉え方で、顔をキレイにするだけではない、その内面というのもすごく納得できますね。やっぱり生き方かなと思うので、“美しくかっこよく生きていこうよ!”みたいな提案をしたい。目指したいですね!
【北尾学長】美しくかっこよく”ですね。人によって当然輝き方とか度合いは様々ですが、そういうものが醸し出されるというか、にじみ出てくるというか、そういう風な人になってもらいたいですね。
先生の色々なこれまでの経歴・ご経験とか踏まえると、しなやかに、周りの環境も上手い具合に取り入れて、興味あることに対して前向きに進んでいくというか・・・
【江川先生】流れに乗っただけだと思います。
アメリカについても、五・六年したら帰らなきゃいけない、逆に期間限定でよかったかもしれないです。一応『リック・ベイカーさんとこで働くんだ!』という目標達成できたわけです。帰るにあたってはアメリカで出産した娘が二歳ちょっとになっていましたが、
均等に父親と母親の感覚を身につけて育ってもらいたいから、一緒にいたほうがいいと思っていたので帰国しました。子どもってすごい成長するじゃないですか?
【北尾学長】その年ごろのこどもは、心身とも劇的に成長するというか、変化しますよね。
この世界なら向こうに留まりたいと思うでしょうけど、それで帰国されたんですね?
【江川先生】リック・ベイカーさんの工房にやっと入って一年も満たないぐらいでしたけど、日本に帰ったら、帰ったなりの仕事ができるんじゃないかと思ったんですね。なんとなく、そのあたりの選び方ですかね。
【北尾学長】なるほど、いい意味で“なんとかなるわ”という感じでうまく流れにのった感じがしますね。
【江川先生】たまたま私のチョイスがいい方向に向かってくれただけかもしれないです。
選んだほうが正しかったり、あのとき選んだからこうなったというのは、確かにあります。だから運もちょっと影響していますね。
【北尾学長】先生の考え方や姿勢が、うまく (運を)引き寄せている感じがします。
今日は、楽しい会話をさせていただきまして、どうもありがとうございました。
江川 悦子 客員教授(就任)Profile
1976年出版社入社後結婚を機に渡米。1979年ハリウッドにあるJoe Blasco Make‐up Center入学。
同校を卒業し映画スタジオで助手となる。映画『デューン/砂の惑星』、『ゴーストバスターズ』、『キャプテンEO』などのプロジェクトに参加。
特殊メイクの第一人者リック・ベイカー氏に師事する。1986年日本に帰国し日活撮影所の中に特殊メイク制作会社メイクアップディメンションズ設立、
2008年東宝スタジオに移動
撮影:株式会社メイクアップディメンションズにて