不登校やいじめなどの問題は、日本の社会が子どもたちにとって「しんどい」社会であるというサインです。それは、社会の中でホッと自分をさらけ出すことが
できる「飛び地」のような空間、ありのままの自分の居場所がないということであります。大人たちは、問題指摘型の指導をすぐにやるのではなく、子どもたち
の悩みや苦しみをまず聞いてやり、「分からない」ことに寄り添い、一緒に抱えて子どもたちが自分自身で気づくことができるようにすることが大切です。
欧米では社会問題への対応の原理として、ソーシャル・インクルージョンという新しいパラダイムが登場しました。これは、問題の原因を見つけて排除しようと
する過去志向の考え方ではなく、排除された人たちを社会の中に包み込み、社会を担う一員として参画してもらうようにしようという未来志向の考え方です。こ
の対応原理に立つと、子どもたちの抱えている問題も多面的であり、学校の範囲を超えるようになっているので、学校は抱え込みをやめて、関係諸機関や社会の
さまざまな人たちとともにチームを組んで悩み苦しんでいる子どもたちと「行動連携」することが必要になっています。これは、問題の解決にとどまらず地域の
教育力を再生させていこうという文部科学省の考え方でもありますし、官と民が横に並んで一緒になって社会を作るという「ヨコのガバナンス」への発想の転換
ということでもあります。
社会学では、人間を役割のモザイクとしてとらえます。人間は役割を通じて社会とつなが
り、役割を果たすことによって自己の欲求を満たし、自己肯定感を育んでいきます。社会の一員としてやるべき仕事を引き受け、社会の一員としての感覚を持つ
ようになっていく過程を「社会化」と言いますが、科学技術の発達によって日常生活が便利になる中で、社会が持っていた社会化の機能が低くなってしまいまし
た。現代の日本社会においては、自己の存在の意味を感じさせる絆を、家庭や学校、地域のなかに作っていくような仕掛けを意図的に作ることが必要になってい
るのです。
社会の中で自立し、将来に繋がるようなヴィジョンと基盤を育てていくことができれば、子どもたちはたくましく成
長し、社会の一員として役割を果たしていってくれることでしょう。子どもたちがありのままでくつろげる空間を作り、共同生活を送る中で当然に必要になって
くる仕事・役割を担うようにともに成長を喜んで評価していくこと。これらは、私たち大人が今日からでも取りかかれることなのではないでしょうか。 |