大阪樟蔭女子大学

平成21年度大阪樟蔭女子大学現代GPシンポジウム 男女共同参画社会における 支援モデル 報告

研究成果報告「学生による男女共同参画社会における子育て支援モデルの提言」

学生報告

学生報告要旨(提言1)〔子育て支援 理論モデル〕

本学の調査結果からも、育児不安を抱えた母親が多くみられるという現状がある。そのことを踏まえ、学生は、母親の育児不安を解決するためには、地域との近所づきあいを改善すること、また家庭内では父親の固定観念を変え心理的なサポートをする必要があることを議論した。

その結果、学生は、地域・父親・企業の側面から、育児不安についての以下のような具体策を含むモデルを提言した。地域コミュニティを活性化させるためには「子ども畑々ルンルン事業」「子育て劇団の設立」を提言した。家庭内での父親のサポートに関しては、父親の固定観念を変えるために、「育児パパかっこいい作戦」、夫婦間のコミュニケーションを促進させるためには「男と女のコミュニケーション辞典策」を提言した。また、企業に関連する新たな施策は、育児休業サポート機構というような組織を作ることを提言した。これらの支援によって母親の孤立は減少し、子育て不安はしだいに解消されていくとのモデルを提言した。

学生報告要旨(提言2)〔子育て支援 実践モデル(関屋)〕

関屋キャンパスにおける「子育て支援実践」受講生は年2回の取り組みから以下のように子育て実践モデルを見出した。

1回目の取り組み=SHOIN子育てカレッジにおけるワークショップは、実践経験が無いため、机上の学習から現代の親子のニーズを考え企画・実践した。

2回目=香芝市子育て支援センター内グリム絵本館におけるワークショップは、企画前に、前回の実践をとおして得た自分たちの“気づき”に、保護者やカレッジに関わった他学生へのアンケート結果を加えて分析をした。その結果、1回目よりも親子のニーズをより深く考え、実践に臨むことができた。2回目の実践終了後も同様に、保護者アンケートや香芝市職員等学外の支援者の意見をふまえ考察し、親子のニーズへの理解をさらに深めると共に、ワークショップの改善点も多く見出された。また、グリム絵本館周辺の来場者の状況や共に取り組む地域の支援者の思い等を考え実践しなければならないことにも気づいた。

この経験から受講生は、①保護者や他の支援者の声を加えて分析することによって、自分たちの“気づき”の偏りの修正や補足を行うこと(「客観化のプロセス」)、②取り組みを行う地域の様々な情報を入手しその地域の実態に即した企画を練り上げること(「具体化のプロセス」)の2つのプロセスが必要であることを理解し、この繰り返しによって、より良い実践と実践者としての成長が可能となるとして、実践プロセスモデルを提言した。

学生報告要旨(提言2)〔子育て支援 実践モデル(小阪)〕

東大阪市小阪キャンパスにおける取り組みは、少ない受講生(毎年10 名以下)で実施でき、かつ、地元東大阪市と連携しつつ事業をすすめるという条件をふまえ、大学でのイベント型の取り組みではなく、学外での活動をメインに据えたものとなった。

活動の場は、東大阪市担当者との相談もふまえ、市の子育て支援事業の一環である「つどいの広場」(3 カ所)とした。演習における学習は、すべてこの東大阪での実践活動に連結するよう構成し、演習履修者が自らのアイデアを実践するという形をとることで、学生の修学意欲と実践内容の質の向上を達成した。

また、実践においては、遊びを通じて親子の交流を深めるためのプログラムを企画し、「広場」において実際にそのプログラムに取り組んだ。施設を3カ所に固定し、それぞれの施設で年に2 回繰り返す実践は回を追う毎に改善され、また、地域との信頼関係の構築にも大きく寄与したと思われる。

パネルディスカッション「男女共同参画社会における子育て支援モデルの検討」

◆コーディネーター
・甲村弘子氏(子育て支援開発センター調査研究部門長)

◆パネリスト

西村 多恵子氏 奈良県福祉部こども家庭局少子化対策室室長

行政の立場から奈良県福祉部こども家庭局少子化対策室室長
西村 多恵子氏

奈良県は専業主婦率が全国1位であり、専業主婦の育児不安の増大と母親の孤立は重要な課題の一つと認識され、次世代育成支援後期行動計画にも重点施策と位置づけられている。学生の提言に対して、「子ども畑々ルンルン事業」は楽しい制度である。畑をあげるということは難しいかもしれないが、貸し農園などを活用することによって学生と子育て中の親子、地域の人達との交流が図られ、実現可能ではないかとの提案がなされた。

橋本 恵一氏 東芝情報機器株式会社

企業の立場から東芝情報機器株式会社
橋本 恵一氏

男性が育児休職をしない理由、父親の子育て参加の効用、東芝グループの育児休職の取得事例、また実際に橋本氏が所属する営業部の家庭へ実施されたアンケート調査結果から、子育て支援策を示された。バランス感覚を持って仕事も家庭も両立することが大切であり、その姿を見る子どもの心の安定にも繋がると橋本氏は指摘する。学生提言の「育児休業の義務化」については、技術を必要とする部署や顧客を抱える営業ではスキルを持った人材が不足する面から難しい。休職という形は難しいが、家庭内にかける時間を増やす工夫は可能である。その家庭内での支援策について提案された。

阿波谷 俊一氏 なら大人塾代表

男性の立場からなら大人塾代表
阿波谷 俊一氏

昨今、父親の育児参画は、メディアの影響もあって当たり前になりつつある。この世の中の流れの中で、すべてそれが良いことなのかと阿波谷氏は疑問を抱く。父親と母親の違いはどこにあるのか、父母の違いが無くなることで、父親の威厳や、家長としての存在が薄れてしまい、ここ一番の抑止力が効かなくなるのではないか、と参加者へ投げかけられた。また、父親のみの集まりには向き不向きがあることから、活動を「スポーツ」や、「冒険」の内容にする等、子どもを大人の世界に引き込むという新たな提案が示された。

三木 幸氏 ドゥーラクラブ代表

女性の立場からドゥーラクラブ代表
三木 幸氏

子どもと大人が、共に育ちあう関係を築ける人づくり・地域づくりが必要である。子どもの育ちに視点をおいた、親の支援が子育て支援であり、環境の整備や、イベント的なプログラムを提供するだけでなく、親の子育てに対する不安や、ストレスを軽減する日常的なエモーショナルサポートが何より大切であると、三木氏は語る。大学での支援については、イベントや子育て広場など、親子や地域の人が集える場の取り組みは有効的であり、また次世代の親となる学生にとっても、親子の現状を把握し、気づきを学びに繋げることは重要であると語られた。

山崎 晃男氏 子育て支援開発センター教育開発部門長

大学の立場から子育て支援開発センター教育開発部門長
山崎 晃男氏

子育て支援を行っていく人材育成をすることは重要な課題である。香芝市との連携事業で今年度から行っているグリム絵本館は学生を絡む活動として新たな取組であり、教育プログラムに取り込む形で今後も行っていきたいと考える。学生の実践活動として今回行った父子対象の活動は父親が参加しづらい状況が見受けられた。父と子という働きかけよりも地域の男性としてその子ども達を含む形で、父親に働きかけることが可能ではないかと提案された。学生が今後考えていくべき課題としては、子育て支援をしている時に支援者側はどのようなことに悩み対応されているのか、支援者の育成やケアという視点も踏まえ考えていく必要性について述べられた。

パネルディスカッション要旨

今回のパネルディスカッションでは、行政・企業・男性・女性と様々な立場の方々が現在行っている子育て支援の取り組みに加え、学生提言に対して様々な立場としてのご意見を伺うことができた。ご指摘頂いた視点も多岐にわたり非常に興味深い内容であった。また、会場からも活発なご意見を頂き、子育て支援に対する関心の強さと重要性を改めて感じた。

学生が男女共同参画社会における子育て支援のあり方についてこれまで行ってきた教育実績とともに、「子育て」や「子育て支援」の可能性を探りながら、多角的に検討するという今回のねらい以上の成果を上げることができたのではないかと思う。学生にとって自分たちがこれまで行ってきた活動、またそれに対して、モデルという形で提言したが、パネリストの方々や会場に来られた地域の方々から『生の声』を聞けたことは、大変有意義な機会になったのではないだろうか。

新たに気付かされた今後の課題については、学生の教育プログラムへ反映させ、今後も引き続き積極的に取り組んでいきたい。

基調講演

板東 元氏

旭山動物園園長
板東 元氏

基調講演 「動物の子育てから見る人間の子育て」要旨

動物は「生命」をつなぐために生き、迷いがない。しかし、人間はどうか。サルの群れが不安定になると、大人の争いに巻き込まれて子どもが死傷するなど、まず、子どもが守れなくなる。飼育係として見れば、今の日本の社会は「10年持たない」と思う。

人間は哺乳類、サルの仲間である。本来、群れで生活し、赤ちゃんを産み、抱っこをし、おっぱいをやって育ててきたが、現代的な核家族、共働き、夫婦でする子育ては、むしろ、鳥の社会、鳥の子育てに酷似している。しかし、鳥は卵生だからそれが可能なのである。今や、人間はアリにも鳥にも魚にもなれる知識や技術を手にしたが、鳥になりきることはできるのか。そこに葛藤や問題の根があるのではないか。

オランウータンのペアリングと子育てに、環境の力、本能的な子育て力、味覚を育てることや抱っこの意味などを教えられた。「生命」の基本は、次代に何を残し、託すのか。知識や技術、情報に頼るのではなく、自分の感性・感覚を信頼すること、群れ=社会・共同体の意味、母子の関係を基盤としたあり方など、再考の必要があるのではないだろうか。

【参加者統計】
・参加(一般86名、教職員30名、大学生12名)
・性別(男性44%、女性56%)
・年代(20代21%、30代20%、40代18%、50代25%、60代9%、70代3%、無回答4%)
・地域(奈良県70%、大阪府27%、兵庫県3%)

大阪樟蔭女子大学子育て支援開発センター長 菊野春雄

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