第1回 学長対談

株式会社近鉄・都ホテルズ 執行役員 人事(楳垣先生) 楳垣 真弓氏

大学卒業後、株式会社 都ホテル(当時)へ入社、ホテル近鉄京都駅 総支配人、ホテル近鉄ユニバーサル・シティ総支配人を経て、現在、株式会社近鉄・都ホテルズ 執行役員 人事部長として忙しい日々を送っておられる楳垣先生。

本学が今回新たに提示したグランドデザイン「美(知性・情操・品性)を通して社会に貢献する ~美Beautiful2030~」をもとに、女性が働き続けるためにどのようなキャリアプランを描くべきか、本学への期待やこれからの役割も踏まえて北尾学長と意見交換していただきました。

【北尾学長】本日は、お忙しい中、貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。自由にお話ができればと思っておりますので、よろしくお願いします。

【楳垣先生】よろしくお願いします。

【北尾学長】まずは、大阪樟蔭女子大学について少しお話させていただく時間を頂戴したいと思います。今年、本学の運営母体である樟蔭学園は100周年を迎えました。本学も大正6年(1917年)に設立、今日に至っております。当時は樟蔭高等女学校と申しました。

【楳垣先生】今年で設立100周年ですか。おめでとうございます。

【北尾学長】ありがとうございます。
当時は、女子の中学・高等教育機関が少なく、森平蔵氏(創立者)が私財を投じて現在の東大阪市小阪の地に樟蔭高等女学校を設立したのが始まりです。それ以来脈々と一貫して女子教育に取り組んで参りました。どんな時代においても社会で活躍できるよう、常に一歩先を見つめた女性の育成に努めてきた次第です。
近年は学士課程基幹教育に力を入れておりまして、早い段階から将来をイメージできるよう、入学時からキャリア設計のカリキュラムを導入しています。さまざまな選択肢がある現代で、今回ご縁あって本学の客員教授に就任いただく運びとなり、学生にとっては非常に頼もしいロールモデルになっていただけると期待しています。
ところで、楳垣先生は、長年にわたってホテル業界でお仕事されて、ホテル開業の準備室室長、総支配人、人事部長と歩まれていらっしゃいますが、その間さまざまなご苦労もあったと思います。振り返ってみていかがでしょうか?

【楳垣先生】私としては、キャリアアップをそこまで強く意識してきたつもりは無くて、“与えられた仕事をきちんとこなす”という姿勢で取り組んでいるうちに、気づけば管理職になり、ホテル近鉄京都駅の総支配人になり・・・そして今に至るというのが正直なところです。

【北尾学長】ホテル近鉄京都駅というと・・・あれは、ゼロからのスタートだったんですか?

【楳垣先生】2011年10月にホテル近鉄京都駅はオープンしたのですが、私はその新規ホテルの開業準備室長を命じられました。新しいホテルを作るなんて経験したことがない、まったくゼロからのスタートで非常に苦労しましたが、多くの方々に助けていただいてなんとか開業に至りました。
すると今度はそのまま総支配人に任命されて。まさか自分が総支配人になるとは思ってもみませんでした。

【北尾学長】辞令を受けられて、はじめてそこで驚かれたわけですね。

【楳垣先生】経験の無い仕事には当然不安も感じますが、私の場合はそれよりも、“その仕事面白そう”とか“せっかく任されたのだから頑張ろう”という気持ちのほうが上回ることが多かったなと、振り返ってみて思いますね。

【北尾学長】新入社員のころから、ひとつひとつの仕事はしっかりやろうというモットーで、仕事にあたっていらっしゃったのですね。
ところで、仕事は当然ひとりでできませんので、さまざまな方と一緒になってひとつの形を作っていくということが多かったと思います。その場合、葛藤もあったと思いますがどういう風に乗り越えられたのか、お聞かせいただきたいなと思います。学生へのアドバイスになればいいかなと思いまして。

【楳垣先生】フロントと宿泊予約の勤務が長かったのですが、ある日新しく立ち上げることになったハウスキーピングのマネージャーを命じられました。客室を扱うという意味では今までやってきた業務に通じるところはありましたが、仕事の内容はまったく別で、まるで違う世界に来たみたいでした。

【北尾学長】今まで見えていた景色と全く違ったんですね。

【楳垣先生】用語一つをとっても分からないことばかりの中で、職場のスタッフに教えてもらったり助けてもらったりしながら、一歩一歩着実に実行していきました。その中でフロントや宿泊予約の経験があったからこそ気づいたことや、変えた方がいいと感じたことを皆で話し合うことで信頼関係が高まり、新しい部署の成功につなげることができたのだと思います。

【北尾学長】なるほど、お話を聞いていると角度を変えて見ることは大事ですね。それに、感じたことをもとにちょっとでも良くしていこうとする前向きな姿勢を絶えず持っていらっしゃる・・・

【楳垣先生】同じことをしていても、自分の中でおもしろさを見出したり、どうやったらおもしろくなるか、効率的にしていけるか考えたりしていましたね。もちろん、つまらないと思ったことや、腹が立つこともいっぱいありましたが、それはそれで、次の日まで残さないように発散させていました(笑)。

【北尾学長】そうですね、大事なことです。
ちょっと話が戻ってしまうのですが、なぜホテル業界を選ばれたのでしょうか?

【楳垣先生】実は、大学入学当初から就職先としてホテル業界を考えていたわけではありません。せっかくだから様々な勉強がしたいと思って、教職課程を取って教育実習に行ったりもしました。それはそれで楽しかったのですが、やはり専攻だった英語を使う機会の多い、旅行業かホテル業に行きたいと思うようになり、当時は旅行業界のほとんどが大卒女子の採用を行っていなかったので、自然とホテル業界の志望度が高まっていきました。
また、“長く働きたい”という思いは当時からあったので、もともと旅行好きだったこともあり、自分の好きなことができれば長続きするだろうとも考えていました。

【北尾学長】大学4年間の経験をもとに、じっくり考えて最終的にホテル業界に向けて就職活動しようと思われた。いかにさまざまなことを経験するかが大事ですね。

【楳垣先生】そうですね、大学時代が一番、さまざまなことができる時期だと思いますよ。

【北尾学長】どの学生も大学時代を通じてさまざまな選択肢に直面し、最後のひとつに絞ります。そのあたりをぜひ学生に伝えてもらいたいですね。
また女性の場合、出産・育児などさまざまな出来事が起こりますよね、仕事と家庭の両立の問題もあると思いますが、そのあたり楳垣先生の場合どのように対応してこられたのか、お聞かせいただけませんか?

【楳垣先生】採用面接をしていると、「結婚や出産をしても辞めずに働きたい」という女子学生の声を聞きます。長く働きたいという気持ちは持ってくれているようです。私はそれを助けてあげたいと思う反面、果たしてどれだけイメージできているのだろうかとも思ってしまいます。 つまり、やってみる前からあれこれ心配しているようにも見えるのです。

【北尾学長】なるほど。

【楳垣先生】 私は結婚するとき、家事に支障が出てしまったらその時に辞めることを考えよう、と思いました。また、子どもを生むときは、もし子育てと両立できなくなったらその時に辞めることを考えよう、と。二人目の子どもが生まれるときはさすがに仕事を続けることはもう無理かもと思いましたが、ちょうどその年に育児休業が法制化されて。子どもたちは小さい頃から、“お母さんは働いているもの”と受け入れてくれました。確かに時間に追われる毎日で大変なこともありましたが、振り返ってみると楽しかったですね。
もちろん、周囲の協力はすごく大きかったですよ。子どもが熱を出した時も「早く帰ってあげて」と言ってもらえたりして。そうやって助けてもらえるから、“私ができる仕事は頑張ってやらなければ”と強く思いました。本当に良い環境の中で仕事と子育てをさせていただけたと感謝しています。

【北尾学長】確かに今、育児制度が整備されていますけど、会社によってまだまだばらつきがあります。その中で楳垣先生の場合、“ここまで来たんだったらもう少し頑張ってみよう”という気持ちでなんとか今日まで続けていらっしゃったんですね。お話を聞いていると、非常に前向きというか、ポジティブな感じがします。

【楳垣先生】前向きかどうかわからないですが、私は本当に周囲に恵まれていました。だから若いスタッフには「やってみる前にあきらめるのはやめてね」と、よく言うんですよ。

【北尾学長】学生たちの中には悩みに悩むけれど一歩も踏み出せず、時間ばかりが経って結局何も残らなかったというパターンをよく見受けるんです。やる前からあきらめるケースは男子学生でもありますね(笑)。今のお話を聞くと、まったく逆のスタンス、“考えてもうまくいくとは限らない、何事もまずあたってみよう”そういう前向きな気持ち、心構えが大事ですね。仕事もそうです。

【楳垣先生】わからないことは教えてもらわないと仕方がないですし、考えてもどうしようもないことは、それ以上考えないようにします。ただし、考えないといけないことは一生懸命考えます。

【北尾学長】まだまだ女性の社会進出、社会にでてからの問題点も多々あると思いますが、そういう姿勢の女性が、会社でも、会社以外のさまざまな活動でも増えることを願っています。
聞くところによりますと、近鉄・都ホテルズでは「女性が働き続けたくなる職場を作る委員会」があり、楳垣先生は委員長をされていたそうですね。経緯や中身を伝えられる範囲で結構ですので、お聞かせください。

【楳垣先生】「これからは多様な人材をいかに活躍させるかという時代だ。女性の活躍を一層推進しなければならない。」という弊社社長の指示のもと、私のほかに各ホテルから委員を集め発足しました。それこそ、結婚前の若い社員から出産・育児の経験を持つ社員まで、様々な社員を集めました。
委員会の議論の方針は、休みを増やすことではなく働きやすくすることに主眼を置こう、と決めました。つまり、“育児休業を3歳まで取得できるようにする”というような提案ではなく、“1年間の育児休業後にいかに戻りやすく、働きやすくするか”を考えようということです。

【北尾学長】私たちは、どうしても育児休暇・産休など、休みをどうするかに意識を集中してしまいがちですね。マスコミの報道もそうかもしれません。

【楳垣先生】休む期間が長いことが良いことであるように言われますが、必ずしもそうではないと思います。いざ復帰したとき、本人にどれだけやる気があっても出産前と全く同じように働くことはできないし、ブランクが長いほど業務も思うようにはかどりません。そうしてだんだん嫌になって辞めてしまう。それならば、円滑に復帰して働き続けられるほうが本人にとって、もちろん会社にとってもよいと考え、意見を出し合いました。

【北尾学長】そのあたりをまとめて、提言として社長に提出されたんですね。

【楳垣先生】そうです。この活動に基づいて制度も改正しました。例えばですが、法令で育児休業期間の上限が延長されましたが、弊社では小学校に上がるまで取得できた従来の時短勤務の制限を見直して、さらに低学年の間は年間100日までこれを認めるようにしました。この間の子どもって、早く帰って来ることも多いですからね。

【北尾学長】なるほど。実情にあわせて臨機応変、柔軟性のある運用を行うことができるように、まとめてこられるんですね。

【楳垣先生】急な改革はできませんが、せっかく全社を挙げて取り組んでいることですから、一歩ずつでも着実に進めていかなければならないと思います。

【北尾学長】御社の社長も男性ですよね?楳垣先生を委員長に指名してスタートしたわけですから、心強いはずです。もちろん男性社員の、パートナーとしての協力や理解、意識も大事だと思いますが、委員会では男性を含めた全社員に向けて、提言を盛り込んだのですか?

【楳垣先生】もちろん、男性社員も育児休暇が取得できることなどを盛り込んでいます。
実はすでに就業規則にも明記しているのですが、難しい言葉もたくさんあるので、わかりやすく書かれた両立支援ガイドブックを作成し、配布しました。従業員は気になることがあればガイドブックを見てすぐに調べられるようになっています。

【北尾学長】いわゆる働き方改革に繋がるお話だと思いますが、社内に浸透させるということは地道でなかなか時間がかかるものですね。

【楳垣先生】少しずつですが理解を得られ、育児休業を取得後に復帰する社員も増えていますので、効果がでてきたのかなと感じています。委員会としては、まずは“女性”に焦点を当てましたが、女性活躍の推進はダイバーシティ推進の第一歩だと思っています。今後さらに範囲を広げていかないといけないと考えています。

【北尾学長】楳垣先生のリーダーシップでしっかりとさまざまな方をまとめられたからこそ、活動が前へ進んでいるのだなと、非常に感じます。
今、“ダイバーシティ”という言葉が出てきましたけど、多様性のある人材が社会のさまざまなところでかかわってくる、これからの日本社会の重要なキーワードだと思っています。そういうことも、ぜひ学生の授業でメッセージとして盛り込んでいただけたらありがたいと思います。
本学は、女性の教育というところで今回あらためてグランドデザイン〈美Beautiful2030〉を提示しましたけど、楳垣先生のキャリアの歩みは共鳴することばかりで、学生にとってもちょっとした気づきになると考えています。今後ともさまざまご協力いただき、お付き合い願いたいと思います。
今日は、どうもありがとうございました。

楳垣 真弓 客員教授 Profile

同志社大学 文学部卒

1983年 都ホテル入社

2009年 京都駅4番線ホテル(仮称)開業準備室 室長

2011年 ホテル近鉄京都駅 総支配人

2015年 ホテル近鉄ユニバーサル・シティ 総支配人

2016年 株式会社近鉄・都ホテルズ 執行役員 人事部長(現職)

2017年 本学 客員教授 就任

撮影:大阪マリオット都ホテル インペリアルスイート

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