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樟蔭BLOG

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2023.08.30

“天城越え”してきました

樟蔭レポート

夏休み中、日本地震学会教員サマースクール2023というフィールドワークに参加してきました。小田原あたりを拠点に熱海の山の上、足利市、秦野市などがポイントなので、その前後で伊豆も巡ってきました。
“天城越え”という歌があります。なぜ、わざわざ険しい山中を越えていってのか疑問でした。伊豆の海岸に出て自分なりに納得できました。次の図は伊豆半島の地形を表した図です。

小さくてわかりにくいでしょうが中心あたりの赤い着色部が天城峠のあるところになります。天城越えの歌の中に“天城隧道”と出てきますが、正式には天城山隧道です。
この隧道ができる前はこの上部にある天城峠や付近の峠を越えて南伊豆と北伊豆との交流があったようです。天城峠。
南伊豆から運搬されるものの中に寒天があったので、このことと関係して、歌にも出てくる寒天橋と名付けられた橋があります。寒天橋です。

天城越えのわたしなりに納得した理由は次の通りです。伊豆の海岸線の険しさです。海岸は平坦地から海までずどんと落ちた崖になっています。東海岸の崖。

物を運搬するときには極力上下の移動は避けますが、伊豆の場合、上下移動を避けて海岸に出ても崖が移動を阻むことになります。そこで、南伊豆の海岸付近から北に向かう場合、海岸から川がつくった谷を遡り、天城峠などを越えてその北側に延びる大きな河川谷沿いに移動する方を選んだのではないでしょうか。
浄蓮の滝

ポットホールはご存じでしょうか。次の写真は笠置山の下を流れる木津川の岩盤にできたポットホールです。
岩のくぼみに岩や砂などが入り込み、それらが、流水の影響で、岩底を丸く削っていく地形です。これ自体は特に珍しいものではありません。次の写真のように削られた岩の穴に、水と一緒に削った岩が入っていることもあります。
伊豆の東海岸には、ポットホールの中にびっくりするくらいまん丸の岩が残っているところがあります。
WEBを検索してみると、波が上がってきたときこの丸い岩が転がる様子が映っているものもありますが、残念ながら転がる様子を見ることはできませんでした。その代わり、岩をさわってきました(海水をかぶりました)。ほんとうにまん丸のつるつるでした。
次は大室山です。富士山のような形をした山体の元火山です。次の写真は大室山を、その東の海岸付近から遠望したもの。
東伊豆には火山がたくさんあります。ここのの火山は一度噴火しても次また同じ火口から噴火することはなく、一度きり、という火山たちです。この大室山も4000年前の一度きりの噴火で、スコリア(白色ではなく濃い色のついた軽石)を大量に吹き上げ300m程度のミニ富士山をつくり、同時に裾野あたりから大量の溶岩を流し大室山より東側を埋め平坦地をつくり海岸まで流れました。先ほどのポットホールがあるのは、この溶岩の東端海岸です。大室山の斜面の角度は約30度で、これは砂場で上から砂を落としたときにできる砂山の斜面の角度と同じになります。想像していたよりも巨大な山体で一周できる頂上からの眺めはなかなかのものでした。状態がよければ富士山も見えるのですが、この日は無理でした。
以下、観察した場所だけ列挙しておきます(一部写真あり)。
小室山(大室山をさらにサイズダウンした山体)
鮎壺の滝(三島市,1万年前の富士山噴火で流れ下った溶岩の先端部に形成された滝)
割狐塚稲荷神社(三島市,三島溶岩の先端に位置する神社で溶岩地形が残っている)
走り湯(熱海市,洞窟の奥に温泉が湧き出している)
2021年の熱海土石流の流下地点(まだ被害痕が残っている)
丹那断層露頭(断層公園・火雷神神社,静岡県田方郡函南町,左横ずれ断層)
足利平野の地震観測のために設置された地震計(小田原市立豊川小学校)
自噴井戸(小田原市富水駅,地下水圧が高いため穴を掘れば水が噴き出す)
曽比の霞堤(神奈川県立城北工業高校横,治水対策の知恵)
国府津-松田断層の断層崖(足利平野東端の崖)
震生湖(大正の関東地震=関東大震災の際の土砂崩れで川がせき止められてできた)
火山灰露頭(神奈川県秦野市くずは南公園内,地層に10枚程度の火山灰が挟まれている)

大久保雅弘(理科,おもに地学生物担当)