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樟蔭BLOG

ブログ

2023.03.01

真理の追究

樟蔭レポート

世界中で宇宙ビジネスが注目を集めている中、東京都が人工衛星を介した通信ネットワーク「スターリンク」を試験的に導入するという発表がありました。「スターリンク」とは起業家イーロン・マスク氏が率いる米宇宙ベンチャー「スペースX」が手がける注目のサービスで、災害などで地上の通信網が途絶えた時に、宇宙経由で代替できると言われています。しかし、このような目覚ましい多くの技術は先人たちの功績によって、支えられています。

  2020224日、アメリカ航空宇宙局(NASA)の数学者キャサリン・ジョンソンさんが101歳の生涯を閉じました。彼女は黒人女性という逆境を才能と努力で克服し、米国初の有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」を支えました。導入間もないIBMのコンピュータの結果を疑った宇宙飛行士が、彼女に再計算を依頼し、「彼女が計算を確認しない限り自分は飛ばない」と言ったことはとても有名な話です。また、当時のアメリカは人種隔離政策の最中で、職場やトイレなどは白人用と黒人用に分けられており、彼女の実績がNASA内での隔離解消にも貢献しました。彼女の活躍は映画「Hidden Figures(邦題「ドリーム」)」にもなり、2016年に公開され、アカデミー賞作品賞など3部門でノミネートされています。

  「美の追求の体現」(2022年度入学者用学校案内)では、「問題発見力」の重要性について触れています。問題解決の世界における「問題」とは、「現在の状況と望ましい状況が一致していない」ことです。したがって、「望ましい状況」が描けなければ、「問題を提起する」ことはできないのです。では、「望ましい状況」を描くためには何が必要なのでしょうか。それは「美意識」です。著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか」で作者の山口周氏は「真・善・美」の追究こそ「美意識」を高めることになると述べています。前述のキャサリン・ジョンソンさんは、不平等な扱いを受けながらも、数学を武器にして「真理の追究」を行ってきました。そのひたむきさがいつしか周りの人たちを突き動かしていったのです。

  「真実」とは事実に嘘がないこと、事実が偽装されていないということを意味するのに対して、「真理」とは時代や場所の変化には左右されず変わることのない、物事の正しい道理のことを意味します。一人でも多くの人たちが「真理の追究」を続けていけば、世界をより良いものにしていくことが出来るでしょう。

  パーソナルコンピュータの父と言われたアメリカの計算機科学者アラン・ケイは、未来予測について「未来を予測する最善の方法は、それを“発明”することだ」と述べています。経済格差、紛争、伝染病の蔓延など世界はさまざまな問題が山積みです。しかし、未来を案じているだけでは何も解決しません。私たちの未来は、私たち自身が作るものであるということを忘れないでほしいと思います。

 荒金 諭