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【臨床心理学専攻】2019年度 日本精神分析的心理療法フォーラム第8回大会 発表予演会が行われました

2019年07月29日

 7月に京都文教大学で開催された日本精神分析的心理療法フォーラムにおいて,本大学院研修員 田中(旧姓大野)菜純さんが,「母と子の関係について考える-タビストック方式乳児観察の経験を通して-」と題して,2年間にわたる乳児観察の経験についてシンポジウムを行いました。そこでフォーラムに先立ち,大阪樟蔭女子大学大学院内のカンファレンスルームで,予演会と勉強会を兼ねた発表会が行われました。当日は在学中の院生や研修員だけではなく修了生の先輩たちも駆けつけ,部屋がいっぱいに埋まりました。

 乳児観察は,子どもの心理療法を行うためのトレーニングのひとつです。赤ちゃんが生まれる予定のご家庭に協力をお願いして,赤ちゃんが生まれて約2週後から2歳になるまでの間,毎週決まった曜日の決まった時間におうちを訪問し,赤ちゃんの成長や,お母さんをはじめとする家族が赤ちゃんにどう関わるのかをじっくり観察させてもらうのです。日本ではまだあまり馴染みがありませんが,イギリスでは50年くらい前から続けられていて,心理療法をする人だけでなく,子どもと関わることの多い保育士さんや看護師さんもこのトレーニングを受けるそうです。

 本の中でしか知らなかった乳児観察のリアルな体験を聞くことはとても新鮮で,出席者からは先を争うように色々な質問が飛び出しました。配布された資料には,例えば赤ちゃんがどんなふうに手足をバタつかせて泣き,それにお母さんがどのように声をかけるのか,そしてそれを見ている大野さん自身がどう感じたのかが丹念に書かれていました。ものすごく細かい記録であることに驚かされました。大野さんによれば,いくつかある乳児観察の目的の中で特に以下の二つが挙げられるようです。一つは,子どもの体やこころがどんなふうに発達していくのかを体験的に知っていくことであり,もう一つは,観察者である自分のこころの動きも「観察」し,内省する力を身につけていくことです。このトレーニングを確立した精神分析・クライン学派のビックは,観察を行うにあたり,「細かい部分に関心を向けること」が大事なのだと言っていたそうです。ところで,これらのことは,クライエントさんのこころを取り扱う心理療法をやっていく上で,私たちが大事にしなければならないことと全く同じことなのです。この日発表を聞いていた私たち院生や研修員は皆,カウンセリング心理療法やプレイセラピーを実践しています。記録に書かれた大野さんの体験を追体験しながら,自分たちがクライエントさんに会っているときのことを思い出し,心理療法について改めて考えさせられました。ディスカッションの時間には,自分たちが感じたことや考えたことを活発に話し合いました。

 大野さんのように大学院の外で積極的に学んでいる先輩は,修了生の中に数多くいます。そうした先輩たちはリカレント講座で事例を発表したり,発達検査のデモンストレーションを見せたりと,さまざまな形で私たちに学びを提供してくれます。大学院に在籍している間に,多くの刺激を受けながら色んなことを惜しみなく吸収しなければもったいない!と思う毎日です。

(研修員 K.S)