「書く」ということ
2016年6月28日
梅雨の季節となり、すっきりしない日々が続いています。もうすぐ7月。学生のみなさんにとっては期末試験など評価が気になる時期になろうとしています。しっかりと勉学に励み単位を取得してもらいたいと思います。
この「学長だより」も3回目となりますが、当初、1ヶ月に1回くらいの雑文なんか簡単に書けると思い軽い気持ちで引き受けましたが、なかなか筆が進まず苦労しています。日々の仕事を言い訳にして少しずつ間隔が空いていくような気がして、「ヤバい!」(本当の意味で)と思う今日この頃です。
社会に出てつくづく思うのは、やはり文章が書けないと苦労するということです。世の中には様々な仕事があり、なかには身体を動かしたり人と話すことが多く、文章や書類を作ることはほとんどない職業もあるでしょう。このような職業の場合、仕事にはさしさわりないのですから、さしあたり文章表現能力が無くても苦労はしません。でも、自分の考えや意見をより正確に相手に伝えたい場合、しっかりと自分の頭で順序立てて整理していなければ、うまくいかない確率が高くなります。頭で考えていることを頭の中だけで固めようとするよりは、一度、紙に書いてみる方が良いのではないでしょうか?最初は混とんとしてまとまりがなかったり主張点が曖昧であったものが、文章化することにより、どこが説明不足なのか、どう話の流れを変えた方が相手に伝わるのか?というところがだんだん明確になっていくでしょう。しっかりと文章に表さなくても、単語やキーワードを記すことでイメージがつきやすくなります。稚拙な文章で良いから普段から書いてみるということが大事だと思います。
自分自身、文章を書くことが苦手でした(今もですが)。ただ2人の恩師に恵まれ、何とか人並みに書く力が養われたと思い感謝しています。最初は小学校高学年の時に、NHKテレビで放映された「新日本紀行」という番組を毎週見て、その番組の内容(要約)と感想を提出するという宿題がありました。400字詰めの原稿用紙2枚くらいだったと思いますが、毎週続くので結構いやで仕方がなかったのですが、だんだん慣れてくるとともに番組の内容が日本各地の様子が紹介されるので、地理にも詳しくなりました。私が通った小学校は当時、4年、5年、6年の3年間は同じ担任の先生だったので、この間、ひたすら書かされた、いや書いた記憶があります。
次は、高校3年の時です。前回のたよりで記したように大学の受験校を決めましたが、その入試には小論文がありました。そしてかつ国語の成績が不安定な状況だったので、担任の先生から朝日新聞の「天声人語」を毎日模写しなさい、と言われました。人の文章をただ真似て書くことで、小論文の力やましてや国語の成績が伸びるのかなあと疑心暗鬼でしたが、夏休みに入り生活のリズムをつくる上でも毎朝、新聞の文章を受験まで模写し続けました。そうすると10月ころから国語の模擬試験の成績があがっていき、年末には文章を書く(テーマを決めて小論文を書く)のが、だんだん苦にならなくなってきました。模写することでまずは語彙が覚えられることから始まり表現例を知り、そして論文としての流れ(起承転結まではいかないとしても)が自然と身についていったのだと思います。年明けからはむしろこの作業が楽しくなってきた記憶があります。
おりしも「田辺聖子文学館ジュニア文学賞」の2016年度の作品募集が始まりました。この文学賞は芥川賞作家であり文化勲章を受章された本学の卒業生である田辺聖子先生に関する研究機関、資料館である本学の田辺聖子文学館が主催しています。表現力豊かな若き世代を育成するため全国の中学生・高校生を対象に、読書・文化活動の発展、向上に寄与することを目的に制定され今回で9回目となります。昨年度の受賞作品を拝読しましたが、文章、文字のもつ力を改めて感じました。若い人たちの豊かな感受性や表現力に圧倒されました。小説などは読むことで情景が浮かびある種の感情が移入されている錯覚にも陥りそうでした。今年も多くの作品募集があることを願っています。
「書く」ということ。なにも文学作品ではなく人に見せる必要はないので幼稚なもので結構。何か文字として表現することが大切だと思います。まずは文字、単語や箇条書きでも構わないかと思います。鉛筆で紙に書いてみることにより、頭のなかのモヤモヤとしたものが少しずつ形あるものやイメージが具体的になるのではないでしょうか?しっかりとした文章を書くこと、自分の考えをもつことの第1歩だと思います。三島由紀夫の言として「文章を書くということは筋トレみたいなものだ。書けば書くほど文章力が高まってくる」と、ある新聞記事でグロービス経営大学院学長の堀義人氏が紹介しています。
トレーニングウエアも栄養ドリンクの準備も要りません。「書く」ことを気楽な気分で始めてみてはいかがでしょうか!?
北尾 悟