学校案内

乗客に日本人はいませんでした

2017年1月12日

 少し遅れましたが、新年の挨拶を!あけましておめでとうございます。 昨日は鏡開き、松の内は関西では1月15日までですが、平成29(2017)年、新しい年の正月をどのように過ごされたでしょうか?皆さんにとって良い1年となることを祈っています。

 大晦日、NHK紅白歌合戦を久しぶりに最初から最後まで見ました。以前と随分違った演出やらコメディー風になり(ネットではいろいろと言われていますね)、紅白も時代とともに変わっていくんだなあという感想を持ちました。そんな中、久しぶりにTHE YELLOW MONKEY(イエモン)の"JAM"を聴いて、懐かしいやら20年前に初めて聴いたときの衝撃というか、何とも言えない感傷になってしまいました。
 この曲を初めて聴いたのは、車でFMラジオを聴いていた時と記憶していますが、メロディーも心にグッときましたが何といっても歌詞に衝撃を受けました。一番心に刺さったのは『乗客に日本人はいませんでした、いませんでした、いませんでした』のところです。「外国で飛行機が落ちました。ニュースキャスターは嬉しそうに」に続く部分です。普通の感覚なら飛行機事故があったら、日本のニュース放送なので、まず邦人の安否確認が重要ですよね。でもイエモンの吉井さんは何か心にひっかかっていました。実は私も中学生時分から、この『乗客に日本人はいませんでした』のコメントを敢えて言う必要があるのかな?と疑問に思っていました。わざわざ言わなくてもニュース原稿中に犠牲者や負傷者の中に日本人がいれば名前を言うし、いない場合は犠牲者や負傷者が何人というコメントで充分だと思っていました。ニュースを見ている人は圧倒的に日本人が多いのですが、違う国籍の人もいるのですから、敢えて『乗客に日本人はいませんでした』というコメントを付け加える必要はないのではと思っていました。同じ理由かどうかわかりませんが、吉井さんもひっかかっていたんだと歌詞を聴いてホッとしたというか、考えさせられました。『嬉しそうに』に『乗客に日本人はいませんでした』が続くから強く衝撃を受けたとも言えます。

 昨今、国際化、グローバル化が叫ばれています。文部科学省は現在、「スーパーグローバル大学創成支援」事業を推進しています。その主旨は、徹底した「大学改革」と「国際化」を断行し、我が国の高等教育の国際適用性、ひいては国際競争力強化の実現を図り、優れた能力を持つ人材を育成する環境基盤を整備する、としています。この文部科学省の主旨に則り、大学をはじめとする高等教育機関では「国際適用性」のある人材育成が課せられています。この「国際適用性」は、単に外国語が流ちょうに話せるだけでなく多くの内容が求められています。この「国際適用性」のベースというか根底に流れることとして、私はグローバル社会における「発言に対する責任」をしっかり身につけないと、「国際適用性」に必要な事項をいくら理解し行動する能力を身につけたとしても、今後立ち行かなくなると考えています。
 国際社会は近年になく流動化しています。英国のEU離脱、アメリカのトランプ政権への移行、そして反欧米を掲げるイスラム国のテロなど、予断を許さない情勢とも言えます。近隣の東アジアにおいても、北朝鮮の国際社会からの孤立、日本と中国の関係、そしてお隣、韓国ともギクシャクしています。そんな中、グローバル社会を生きていくには、様々な思想や歴史などの背景をもつ国の人々と会話をしてお互いのことを理解しあうことがとても重要になってきます。まさしく地球市民としての「国際交流」が求められているのです。会話の際には自分の発言によって「相手がどう思うか、どのような印象を持つか」について、日常生活の会話と比べものにならないくらい気をつけておかねばなりません。発言する相手の国の思想や歴史背景なども含めて充分に把握した上で、こちらの考えを責任を持って述べるようにしたいものです。また相手の発言に対しては、「なぜ、相手はそう思うのか?なぜそのような行動をするのか?」に関して、相手がその考えや行動につながるきっかけや経緯を認識した上で、対話を進めるべきです。自分の意見や考えをしっかりと持たねばなりませんが、その前提として相手の背景などを理解し、ある意味、相手の立場を尊重して臨むべきだと思います。そんな生易しいことでは激動する国際社会の舞台で通用しない、ど素人が生意気なことを言うな、とお叱りを受けるかもしれませんが、国際社会においてはお互いの主張をぶつけ合うだけでは何も進歩はありません。こちらが主張する内容(単語1つとっても、ワンフレーズの表現であっても)に対して、相手がどう受け止めるか、どう解釈するかをある程度、見極めないと建設的な議論ができないと思います。
 人口減少に伴う労働力不足に直面しつつある日本にとって、国内においてもグローバル化を推進していかねばなりません。推進するにあたって、いろいろな価値観が衝突するでしょう。相手の主張ばかりを取り入れていたら「日本」という国が無くなることもあるかもしれません。相手の考えや行動をすべて受け入れろと言っているのではありません。ただ相手を理解した上で、こちらの譲れない部分はしっかりと主張し相手に理解を求める努力をし続けるという姿勢がとても重要だと思います。

 うかつに『嬉しそうに、乗客に日本人はいませんでした』とは言えなくなるかもしれません。言いたい方はカラオケボックス内でシャウト!してください。私も何回か絶叫したことがあることを正直に明かします。

北尾 悟

学校案内