平成30(2018)年度 学位授与式 式辞
2019年3月14日
平成30年度の学位授与式を挙行するにあたり、大阪樟蔭女子大学の教職員を代表して大学院修了生ならびに学部卒業生のみなさんにお祝いの言葉を述べさせていただきます。学位授与、おめでとうございます。めでたく卒業の日を迎えられたみなさんを心から祝福いたします。そして、みなさんの学生生活を温かく見守り支えてこられたご家族をはじめ関係のみなさまと喜びを分かち合いたいと思います。
併せて、後援会、同窓会をはじめご来賓のみなさまにはご多用のところをご臨席賜りまして、厚く御礼を申し上げます。
さて、修了または卒業されたみなさんは、これから人生の新たなステージに向かっていくことになります。樟蔭で身につけた力を思う存分発揮し、活躍されることを願っています。ただ、これからの人生では、様々なタイプの人との関わりを持つことになるでしょう。考え方や行動様式も人それぞれです。他の人を快く思うこともあれば、場合によっては不快に感じることもあります。
最近、私が不快に思っていることを述べます。それは飲食店やコンビニエンスストアで撮影された「悪ふざけ動画」です。当人たちは軽い気持ち、ノリで行っているようですが、仲間内で盛り上がっている様は見苦しく感じます。
この「悪ふざけ動画」には色々な問題が含まれていますが、私が何よりも問題視していることは、食べ物を粗末に扱うこと、食べ物に対する畏敬の念が無いということです。
食べ物は、ほぼ100%生き物が原料です。植物、動物や海産物など生き物から成り立っています。生き物、つまり、命あるものを私たちは食べているのです。命と一体である食べ物を雑に扱ってもらいたくないです。以前、私は食品企業で働いていたので、こういう気持ちが人より強いのかもしれませんが、食べ物のありがたみ、食べ物への敬意を払ってもらいたいと思います。
また最近の傾向として、「インスタ映え」という言葉に象徴されるように、食べ物を中身よりも外見やそこに付随した情報がもてはやされる一種の食のファッション化、ポップカルチャー化している風潮にも警鐘を鳴らしたいと思います。もちろん、食べ物のありがたみを分かった上でなら、見栄えのよい飾りつけをすることには異論を唱えませんが、命ある食べ物を単なる「物」として捉えてほしくはありません。食べ物には命が宿っていたのです。その命を私たちはいただいているのです。
このように「悪ふざけ動画」や「インスタ映え」を通して、「食べ物」「食べる」とはどういうことか、みなさんに今一度考えてもらいたいと思い、この話を出しました。
そして、この私のように不快に感じている人もいることに気づいてもらいたいのです。おそらく「インスタ映え」については、そこまで過剰反応しなくて良いのでは、と違和感を持った人もいるでしょう。でも社会に出たら、こういう考え方や感じ方が違う人たちと同じ時間を共有し仕事をしなければならない場面が多くなってきます。時には対立することもあるでしょう。そのことであなた自身も傷つくこともあるかもしれません。
では、こういう時にどのように対処すれば良いのでしょうか?
ここで1つの対処方法を伝えたいと思います。それは先ほど述べた「命ある食べ物を私たちは食べて生きている」ということから導いた私なりの対処方法です。
われわれ人間も命ある生命体です。生命体である人間は他の命ある生命体を食べて生きている、いわゆる食物連鎖という大きな自然の営みの一つであり、自然界の一員であるということです。そしてこの自然界はわれわれ人間をはじめすべての生命体を包み込むスケールの大きな存在です。昨年、大阪でも自然の脅威にさらされました。地震や台風による風水害がありました。こういう自然の脅威にはわれわれ人間も含めすべての生命体は、為すすべもないということを思い知らされました。
このような経験からも人間お互いちっぽけな一人、個人としてではなく、複数の人間からなる群(むれ)として自然と向き合わねばならないと感じます。より集団での社会行動が求められていると思います。集団での社会行動を円滑に推進するには、やはり人間同士のコミュニケーション能力が求められます。このコミュニケーション能力を培うには、相手の考え方や行動様式を少しでも理解することが必要です。理解を深める一歩として、まずはその相手には自分にない優れたことが必ずあるという前提に立って、優れた面を探し出し、リスペクトすることを奨めます。そしてその人を褒めるということから始めてはいかがでしょうか?
「タイガーチャージ」と言う言葉、おそらくみなさんは知らないと思いますが、プロゴルファーのタイガー・ウッズ選手が全盛期の頃、試合の最終日に驚異的なスコアを出して逆転優勝するということばしばしばありました。なぜ彼は最終日に覚醒したかのようにプレーして勝利することができたのか?こういうことを研究した大学の研究者もいたようで、その人の研究成果によれば、非常に単純な理由でウッズ選手はトーナメントで勝利を重ねたと結論づけました。
その理由とは、「他のプレーヤーの成功を悔しがったりせずに、どんな時も常に喜び褒めていた」ということです。当然、ウッズ選手も他のプレーヤーに勝ちたいので、他のプレーヤーが良いスコアを出すと負ける可能性が高くなります。ただウッズ選手は他のプレーヤーを褒めれば、褒められたプレーヤーは喜びを感じ、時にはそのプレーヤーからウッズ選手自身のプレーに応援してくれる可能性があることを意識もせず行っていたということです。そして何よりも競技の場、コースの雰囲気が良くなり、プレーに集中できたとのことです。まさに他者を褒めることこそが、自分の勝利への近道であることを示していたのです。現に、ウッズ選手は、
I just hoped for the best of the opponent, and try hard! I was cheering.
「わたしは、ただただ相手のベストを願って、頑張れ!と応援していた」
と言っています。
同じスポーツの世界では、テニスプレーヤーの大坂なおみ選手も相手へのリスペクトの気持ちを伝えています。全米オープンの決勝戦では相手のセリーナ・ウィリアムズ選手に尊敬の念を表していました。また全豪オープンでも決勝戦の相手であるぺトラ・クビトバ選手に対しても優勝スピーチの最初に「ぺトラ、大変なことを乗り越えてきましたよね。おめでとうと伝えたいです」とまず相手を称えました。
スポーツを例にとりましたが、相手を認め褒めることは、ある目標、目的に向かって社会生活を送る上で重要であると思います。それは、どんな目標、目的、どんな場面でも同じです。相手とのコミュニケーションが深まりますし、最終的には自分にプラスとなって返ってくることもあるのです。打算的なことは抜きにして、相手をリスペクトし褒めるということは素晴らしいことだと思いませんか!?
樟蔭学園は女子学園として100年を超える歴史を積み重ねています。来年度、2019年度、大学は創立以来70年という節目の年を迎えます。大学では、2030年に向けてグランドデザインを提示し、「美(知性・情操・品性)を通して社会に貢献する~美 Beautiful 2030~」をスローガンとしました。
食べ物に畏敬の念を示し、自然界の中でちっぽけな一人ではあるが、他者をリスペクトし褒めることを通して、多くの人たちと共に生きることをみなさんに心がけてもらいたいと思います。こういう心がけも一つの内面の美しさです。その内面の美しさ、美を通して社会に貢献する女性を育てていくことが、大阪樟蔭女子大学の使命であると考えています。
今、まだ堅いつぼみの桜も、あと一週間もすれば花を咲かせ始めるでしょう。その一週間後には満開となるでしょう。みなさんのこれからの人生も桜の花のように満開の希望の花が咲くことを願って、平成最後の学位授与式の式辞の結びといたします。
平成31年3月14日
大阪樟蔭女子大学 学長 北尾 悟