学校案内

田辺聖子さんを偲ぶ

2019年6月12日

 6月6日(木)に田辺聖子さんが亡くなられたというニュースが、10日(月)の昼過ぎに飛び込んできました。本学の前身である樟蔭女子専門学校の国文科の卒業生であり、皆さんご存知のように、芥川賞作家であり数々の作品を世に送り出した偉大な方です。男女の機微を独特の感性で表した恋愛小説やユーモアにあふれるエッセーで人気を集めました。芥川賞以外にも多くの文学賞を受賞され、2008年には文化勲章を受章されました。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 田辺聖子さんにはこれまで大阪樟蔭女子大学に多大なるご理解とご協力をいただいています。中でも、樟蔭学園の創立90周年を記念して大学図書館内に「田辺聖子文学館」を2007年に開設した際には、400冊以上の著書やコレクションを送られ、書斎の再現コーナーも設けることにも積極的に関わっていただきました。現在、7月8日までの期間、「ミニ企画展『田辺聖子の樟蔭時代』」を開催しています。多くの方に足を運んでいただければと思います。
 2008年には青少年の読書・文化活動の発展・向上に寄与することを目的に「田辺聖子文学館ジュニア文学賞」が始まり、中学生・高校生の応募総数も延べ18万を超える文学賞へと発展しています。今年度も第12回目の文学賞への応募が始まっています。数多くの若くてみずみずしい感性豊かな作品が集まることを期待しています。

 実は、9日(日)に私は駅前の書店で田辺聖子さんの「私の大阪八景」(2018年度大阪ほんま本大賞特別賞受賞作)を買って読んでいました。この作品は、昭和初期から戦時中を経て戦後の頃までの大阪市内北部を舞台に、たくましく育っていく少女の物語です。フィクションの形をしていますが、田辺聖子さんの自伝といっていいでしょう。その中で「その三 神々のしっぽ〈馬場町・教育塔〉」には、友人と(樟蔭女子)専門学校に願書をもっていった、という記載があります。また「その四 われら御楯〈鶴橋の闇市〉」では、戦時中の樟蔭での学生生活(ほとんど軍需工場で働くことを余儀なくされた)や大阪大空襲の際には樟蔭から歩いて福島の実家である写真館までたどりついた様子や実家が跡形もなく戦火に消えたことも記されています。
 あの戦中戦後の時代を少女の目線で市中の人々の営みも交えて表されており、田辺聖子さんの他の作品とは一風違った感じがします。昭和49年に初版が発行され昨年改版再版されていることも併せて、興味深い作品だと思います。

 この本の解説は、交流が深かった小松左京氏(先に鬼籍に入られましたが)が書かれています。その中で田辺聖子さんの作品に引き付けられた理由として「文章の何とも言えない明るさと、ヒロインのかわいらしさ」と記しています。月並みだけど「文は人なり」とも。書く人の人柄や姿勢というものが文章に遺憾なくあらわされているとのこと。
 改めて、田辺聖子さんのご冥福をお祈りいたします。天国で「かもかのおっちゃん」達と賑やかにお酒とお喋りを楽しんでください。

北尾 悟

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