6年間を振り返る
2022年2月 26日
学長 北尾 悟
今回この駄文を最後に、本「学長だより」は3月末をもって閉じることとします。これまでお読みいただいた方々、まことにありがとうございました。2016(平成28)年4月に学長就任以来、随筆家気取りで徒然なるまま書き連ねてきました。稚拙な表現で読みにくいことも多々あったかと思いますが、最後までお付き合いいただき重ねて感謝申し上げます。
この「学長だより」は主に高校生や大学生など若い人たちを対象として、私なりのエールを送るというコンセプトで発信してきました。コロナウイルス感染拡大で世の中の様相が一変しました。しかしながら、このような事態に陥らなくても科学技術の進展や地球環境などの変化が加速し、将来に不安を覚える人が増えている現状があります。特に、これから長く人生を歩む若い人たちは希望や夢があるからこそ、逆に将来の見通しについて不安を覚えることが多いように思います。私も中学‐高校‐大学の頃は、表向きは淡々?と過ごしていましたが、「人間はいつか必ず死ぬのに、なぜ勉強や仕事をして生きていかねばならないのだろう?」といつも心の中でくすぶる気持ちを持った、ネクラ人間でした。この問いに対する解はまだ見つかっていません。ただ、人間という生き物を60年以上続けていると、この解は得られないものとして生きるしかない、という結論に達しました。他人に誇るべく人生を歩んできたわけではありませんが、若い人たちより人生経験が長いので、経験を通して感じたこと、気づいたこと、ちょっとは考えたことをこれまで記してきました。
私が一貫して伝えたかったことは、「人間という生き物は、ひとりでは生きていくことはできないので、どのようにして他の人間と関わり、支え支えられながら生きていくか」ということです。一般的にいえば、コミュニケーション能力を高めなさい、ということになるのですが、これでは具体性に乏しく行動に移しにくいので、実行性が高くなるよう、何回かに分けていろいろと記してきたつもりです。
最初は、「自分がどういう人間なのか、自分としっかり向き合い考える、つまり自分軸を確立するよう意識して行動しましょう」と訴えましたが、若い人にはこれはなかなかハードルが高いと気づきました。そこでもう少し多くの人たちが取り組みやすいアプローチはないものかと考え、逆に、他の人間、つまりコミュニケーションの相手を基軸において考えてみてはどうかということを思いつきました。
つまり、「相手のことを知る」、「相手をリスペクトする」、という行為を通して他者と関わり、コミュニケーションを図るということです。付き合いづらい人であっても、どこかに良い面、優れている面があるはずです。それをみつけ認めて接することを続けていくと、相手の方は快い気分になるでしょう。少しずつではありますが、自分とは異質のものを受け入れるマインドもつくられていきます。さらに相手や周りの人たちに対して感謝する気持ちも高まり、このことが自分に跳ねかえり、自身を高めることにつながると思います。こういう状態になれば、相手からもリスペクトされ、人生も豊かになるでしょう。前回でも記したように、これが、多様性と包括~diversity and inclusion~の本髄です。
永松茂久さんのベストセラー『人は話し方が9割』にも同じことが書かれています。話をしている相手を否定しない、あなた自身も否定させない、このことが円滑な会話をするポイントだそうです。なぜなら、人は自分への関心が一番強い、人は自分のことをわかってほしい生き物、そして人は自分のことをわかってくれる人に好意をもつ、ということがベースにあるからです。そして「いかに話すか」よりも「いかに聞くか」(+スマイル)が重要であるとのこと。『人は話し方が9割』の2年後に『人は聞き方が9割』を発刊されました。その本には「コミュニケーションにおいては、話し方より聞き方のほうが大切である」と記されています。
このように、自分軸を作り上げることができない人(私もいまだ・・・・)は、まず人の話をしっかりと聞くことから始めてはいかがでしょうか?相手のことを知り良い面を認め接することで、円滑な関係が築けると思います。利他の精神に繋がり、ひいては自分自身を高め「人間力」が向上することになります。これからの長い人生はいろいろなことが待ち受けているでしょうが、若い人たちには少しでも利他の精神を持ち、周りの人たちを巻き込んで心豊かに過ごすことを願っています。
「学長だより」の最後に毎回登場した柴犬は、我が家のアイドル、茶次郎くんです。彼は現在、7歳でほぼ私の学長時代をともに過ごした同士です。毎晩、男同士の会話をし、心の支えになってくれています。感謝、感謝。近所でも評判のイケメン君です(親バカ)。最後に彼のとっておきの笑顔を2枚お見せして、学長だよりを締めくくります。長らくの間、ありがとうございました。